23 呆れた
「呆れた」
レデリック王国聖騎士団。
先生がいなくなって以来、すっかり通い慣れたその詰所。
今日も今日とて顔を覗かし挨拶をしてみれば、マルティナがそんな歓迎の挨拶をしてくれた。
「昨日の今日で、よく顔を出せたものね」
「私、聖騎士団に顔向けできないような粗相をしてしまいましたか?」
「どうせその顔は、今日も遺跡に行きたいという顔でしょ?」
大きなため息が、喉の置くが見えるほどに開かれた口から放たれる。
「あら、マルティナさん。淑女が人前で大きく口を開くのはよろしくありませんよ」
「淑女ならあのような目にあったのですから、大人しくするものではありませんか?」
意趣返しとばかりに、滅多に聞かない言葉遣いが返ってきた。
昨日の事件。
本来地下の一階層に飛ぶはずの転移が、私とテレーシアだけが見当違いの場所に飛ばされた。あろうことか、そこには理性ある大型の魔物が待ち構えていたのだ。
後で知ったことだが、あの場所はやはり二階層の崩落した通路の先にあったらしい。かつての主がどういう目的で作ったかはわからないが、国にとって既知の場所ではあったようだ。
無事生き延びることができたのだが、実習中に起きた事件だ。
あれやこれやと大騒ぎとなり、進行中だった一般クラスの実習は即刻中止。後日に回されていた者たちの実習も無期限で中止となるだろう。
私たちは聴取だけで済んだが、大人たちは不眠不休の一日を過ごしたのではないか。
実際、マルティナは寝不足の証が目の下に浮かんでいる。
「昨日は眠れなかったご様子ですね」
「前代未聞の事態だからね。そりゃ寝かせてなんて貰えないよ」
「ご叱責でも受けたのですか?」
「あんなので叱られてたまらないってーの。あれを予測できなかった責任を追求するんなら、端からあそこを実習場に使うなって話になるね」
全くもってその通りだ。
「でも昨日、あの瞬間、わたしは確かにあそこにいたからね。根掘り葉掘り、何度も何度も色んな相手から話を聞かれてもうクタクタよ」
「でしたら今日の所はお休みを頂いた方がよろしいのではないですか?」
「わたし、一夜逃すと次の夜まで眠れないタイプなの。だから今日は諦めて、せめて詰所に顔を出しているわけ」
「それはお疲れさまです」
「そうやって労ってくれるのはクリスだけよ。聖騎士団は薄情者ばかりだから、お疲れの一言もないんだもの。皆はクリスの破壊の神の面だけではなく、そんな人情を学ぶべきね」
しみじみと私の気遣いを踏みにじる聖騎士マルティナ。
「労るというのでしたら、この後お手合わせなどでもどうでしょうか? ええ、必ずや良き眠りを贈らせて頂きます」
「うっわ、可愛い顔して言うことがえげつな」
「褒め言葉として受け取っておきます。いい加減、あまり不名誉な名を広めないようお願いしますね」
引きつり気味なマルティナに上品な微笑みを向ける。
「そうだ、顔を出していると言えばギルベルトも来ているわよ」
「アーレンスさんが?」
「ええ、あいつもあいつでちょくちょく来るからね。クリスと違って、目的は遺跡じゃないけど」
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