【勇者SIDE】勇者シド、剣聖レイアと決闘する

「……やっていられるか! もうたくさんだ!」


 剣聖レイアはブチ切れていた。


「なんだ? どうしたんだ? レイア」


「勇者シド、もはやお前とは一緒にはいられない」


「おいおい! 困るぜ。お前は大事な剣聖様だ。お前がいなくなったらパーティーの戦力がガタ落ちになるんだぜ」


 勇者シドはニタニタと笑みを浮かべる。


「大体、パーティー抜けてどこにいくつもりだよ? あ?」


「アレクのところへ向かう……やはり私に必要なのはアレクだ。私は元々、アレクがいたからパーティーに入ったようなものなのだ。私の剣の為にはアレクの精霊術が必要不可欠だった。私が力を出すためにはアレクがいなければ……」


 レイアはどこかへ向かおうとする。


「てめー! 本気で俺様のパーティーを抜けるつもりじゃねぇだろな?」


「私は本気だ。強引にでもこのパーティーを抜けさせて貰う。このパーティーはもう限界だ!」


「それで、あの無能野郎のところにいくつもりかよ! けっ! そいつは余計に認める事ができねぇぜ!」


「認めるも何も、強引にでも抜けさせて貰う!」


「待てよ……」


 勇者シドは剣を振りかざす。


「この俺様の許可なくパーティーを抜ける事は許さねぇ。決闘といこうじゃねぇか。剣聖レイア」


「なんだと? 決闘?」


「剣で勝負だ。俺が勝ったら今まで通りパーティーに残ってもらう。それでお前が勝ったらパーティーを抜けて行っていいぜ」


「貴様、正気か? 貴様は二度のデスペナルティでレべルが半減し、50程度まで落ちている。その上に切り札である魔剣グラムまで失っているのだぞ」


 シドが構えてている剣はアダマンタイト製の剣だ。それなりの名剣ではあるが、魔剣や聖剣のような伝説的な剣ではない。対するレイアの剣は氷属性でも最強クラスの武器だ。伝説的な剣に分類される。


「その状態で私に勝てると思っているのか?」


「ああ……勝てるさ。何せ俺様だからな。今まで一度たりとも俺様は負けた事がねぇんだ」


「わ、私の蘇生魔法で二度も復活させてるのに、よく言えるわね、そんな事」


 エミリアは嘆いた。


「ほんとですねぇ……はぁ。馬鹿は死んでも治らないか」


 ルルカも嘆いた。


「うるせぇ! あんな事、俺の中では敗北にも入ってねぇ! ノーカンなんだよ! ノーカン!」


「それで、私が勝ったら約束通りパーティーを抜けていいのか?」


「ああ……その通りだ。剣で決着をつけようぜ」


「わかった。それでいいだろう」


 レイアは剣を構える。


「その前によ」


 シドは小瓶を取り出した。レアアイテム『黒龍灰』である。『黒龍灰』はSランクのドラゴン。バハムートの皮膚から精製されるレアアイテムである。バハムートの皮膚を焼いて灰にして作る消耗品アイテムだ。

 その効果は弱体(デバフ)効果だ。レベルを7割ダウンさせ、全ステータスを低下させる。


「ほらよっ!」


「なにっ!」


 レイアは黒い灰をかけられた。


「げほっ! げほっ! なんだこれは!」


「こいつは『黒龍灰』って言ってよ。強力なデバフ効果がかかるんだ。端的に言えばお前が弱くなるんだよ。お前のレベルは99だが、これで30程度まで落ちた。これでフェアな闘いってもんだろうがよ。クックック」


 勇者シドは不気味な笑みを浮かべる。


「く、くそっ! どこがフェアな闘いだ! ゲスめっ!」


「さあ! 始めようぜ! フェアな決闘って奴をよ!」


 勇者シドが不意打ちのようにレイアに斬りかかる。


「くっ!」


 レイアは氷剣を構えた。


 キィン! 甲高い音が鳴り響く。


「本当は大事な剣聖様を弱体化させたくなかったんだけどよ! あの無能野郎のところに行くつもりならてめぇなんていらねぇぜ! 最悪は俺様の手で始末してやる!」


 シドはとても勇者とは思えない醜悪な笑みを浮かべた。


 こうしてレイアのパーティー脱退をかけた闘いの火蓋が切って落とされたのだ。



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