第12話 尋問少女
「おいこら、バジエダの場所を教えなさい」
「ひぃぃぃ!!し、知らないですー!!」
ちっ!
「おい馬鹿、この辺り一帯の地図をよこしなさい」
「も、申し訳ありません!持っておりません!」
けっ!
「おいゴミ、バジエダは」
「ごめんなさいぃ!!ど、どうかお許しをぉぉぉ!!」
ああもう!
ヴァルグたちと別れてからあたしは作戦通りバジエダに関する情報を集める為に大人たちから聞き込みを行っている。
相変わらず憲兵の証はここの大人たちに対して効果は絶大で、ぶら下げているだけで勝手にビビりまくる有様だった。
でも効きすぎて最早会話が成立しないレベルで相手が怯えるのは流石に困る。
本当に憲兵はここの大人たちに何をしたのよ。拷問か?あたしもそんなことをする予定だったのか?
「…………んふ」
「ひぃっ!」
悪くないじゃないって違う違うそうじゃないそうじゃない、何思ってるのあたししっかりするのよ。
初めて見た時はちゃんと怖がれたのに今では何故か愉悦を感じてしまう。
慣れかな?何にしても良くない方向に進んでいる気がする…、でもやめられない止まらない。
どうも此処に来てから性格が多少歪まされた気がする。まぁ他の子みたいにぶっ壊れるよりはマシだけどさ。
…でも憲兵になってたら此処にいる大人たちみたいな階級の連中にはずっとこうやって威張り散らせることが出来るのよね…。
「………いいなぁ」
「な、何がでしょうか…」
おっといけないわあたしったら。また妄想に耽っちゃった♡
今はこの尻餅をついた臭い大人を問い詰めないといけないんだから。
「なんでもないわよぉ」
「さ、左様ですか…でしたらそのぉ、俺にまだ何か用がおありですか、あはは…」
「あはは〜。…あるに決まってるじゃない。なかったらあんたみたいな汚物に近づく訳ないでしょクズ、ゴミ、カス!」
「ひぃぃ!で、ですが本当に何も知らないのです!国には一度行っただけで方角なんて覚えてもいないんです!」
「そこを思い出せって言ってるのよ。…そういえばあんたら、あたしたちにこんなこと言ってなかったっけ?『人間やろうと思えばなんでも出来る、だから死ぬ気でやれ』って」
「へっ…?」
「だからね、死ぬ気で思い出せって言ってるのよ?具体的にあんたの股のブツが無事でいたいならさっさと言いなさいってことよ、ほら」
あたしは大人の股から少し距離を離した位置で地面を大袈裟に踏む仕草を見せる。
よく分からないけど男は皆股が弱点だってお母さんが言ってた。だから襲われそうになったら迷わず狙えって言われたのを思い出して試しに脅してみたけど…。
どうやらあたしには想像もつかない恐怖を感じたらしく、大人の顔色は一気に青ざめていった。
…あれって踏まれるとそんなに痛いんだ……覚えとこ。
「待って!待ってください!!それだけは!今思い出しますから、あっ!思い出した!確かあっちの方角だった------」
「ちなみに嘘ついたら憲兵の先輩たちに報告するから。あ〜どうなっちゃうんだろうな〜。きっと勉強になるようなあれやこれとかいっぱい見せてもらえるんだろうな〜。…楽しみ?」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!違いますさっきのは冗談です!!だから待ってほんと待って!!思い出すからちゃんと思い出すから待ってくださいぃぃ!!」
「は・や・く。は・や・く。さっ・さ・と・し・ろ・よ」
リズミカルに地面を踏みながら徐々に足を股へと近づけていく。
その度に情けない声をあげて真っ青な顔しながらだんだん涙目にもなっていく。
………やばい、堪らない!!
「ほらほら〜、どうなっちゃうんだろうねぇ、大事な大事な身体の一部がぺちゃんこになっちゃうよ〜。ほら〜どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?女の子に情けなく媚びてプルプル震えちゃってる気持ちって、ねぇどんな気持ちか聞かせてよ〜、あはははははは、あっ」
大人の顔を眺めるのに夢中になって距離感を間違えた。
踏むつもりがなかった足にはそこまでの力が入ってなくて、結果あたしはグニュっとした感触のある物体を軽く踏んづけてしまった。
「あふっ」
そんな大人の声を聞き表情を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
さっきまでのこれまでにない高揚感は一気に冷めて、冷静になった頭は一歩距離を開けて足を後ろに引く動作を滑らかに済ませる。
せーのっ、
「気持ち悪いわボケェェ!!」
「はんっ!?」
込み上げた怒りの全てを足に込めて股目掛けて全力の蹴りを入れた。
奇声をあげて気を失った大人の身体が痙攣する様を見て確かに急所だなと確信を持つことが出来た。
それだけでもこの大人からは収穫があったと思うことにしよう、うん。
「気を取り直して次ね…」
我ながら切り替えが早い方だと思う。
だからこそこんなところでもこうして今に繋がっている訳だし、そこは素直に自分を評価しても良い部分だと実感している。
今までされてきたことを思えば大人のもう1人や2人を今みたいにしてやっても、あたしは罪悪感なんてきっと微塵も感じないだろうし、何なら自分の手で殺したとしても……。
「…それは…流石にキツい、かな…」
綺麗事を言っているのは自覚している。
それでもやっぱり、人を殺すのには躊躇いを感じてしまう。
…いや、今では人以外でも殺すという行為を行おうとすれば確実にあたしは躊躇うのだと思う。
ほんと勝手すぎる。あれだけ魔物は殺してきたっていうのに、何を今更。
ヴァルグとキューイに出会わなければこんな事絶対に思うことはなかったはずだ。
でもまぁ、今みたいに考えられることが間違っているとは思わないけど。
「っと、いけない。考え込んじゃった。急がないと…」
言葉に出して思考を断ち切り、急いで別の大人に聞き込みをするために移動を再開する。
キューイからの合図はまだ来ていないから多少の猶予はあるけど、出来れば連絡が来る前にバジエダの場所に関する情報集めを終わらせておきたい。
この作戦で一番の足手まといはあたしだ。
あたしの抱えている問題が一番時間を費やすし、ここから離れた場所にいる家族の安否という不確定要素をどうやっても拭うことが出来ない。
だからこそここで足を引っ張るわけにはいかない。
大人たちをいたぶりたい気持ちは募る一方だけど、時間をかけすぎてさっきみたいに無駄に終わらす訳にもいかない。
慎重に慎重に…。
※※※
「おらぁぁ!!さっさと吐けやテメェ!!バジエダはどこにあるかって聞いてんだろがぁぁぁ!!」
「すすすみみませせせんんん!わわかりりませんんんん!」(胸ぐら掴まれて揺らされている)
そう考えているのにどうしてもこうやっちゃうのは何でだろ?
おかしいな?最初は冷静なのに気づいたらこうなっちゃう。
やっぱこいつらの顔見てると腹立つのがいけないんだろうな。
じゃあ仕方ないあたし悪くない。
「おいテメェら!!誰も知らねぇのか!!だったら仕方ねぇなぁ!罰としてここにいる連中全員に今から『スラン、いつでもいいぞ』------と思ったけど1秒も無駄に出来ないからマジで早く教えろコラァ!!」
やばいやばいやばいどうしよどうすればもう合図来ちゃったよまだ何にも終わってないのにどうする考えろあたし大丈夫スランは出来る子やれる子だから何か策をおおおおおおおおお、はっ!!これなら!?
突然の合図で混乱したけどだからこそ閃いたとも言える逆転の発想。
知らないのなら今から知らせればいいのだ。
自分から探したくなるように誘導させる。
そう、最初からこうさせれば良かったんだ!
「お前らよく聞け!今からあたしに一番早くバジエダの場所の情報か地図を持ってきた奴には憲兵権限でそいつには憲兵補佐の待遇をくれてやる!だから欲しかったらさっさと情報を持ってきなさいほら早く!!」
欲しいでしょ!?あんたらがここまで怯える地位の補佐が出来るのよ!?そしたら憲兵を怖がる必要は無いでしょ助ける立場になるんだから多分!次の憲兵はそいつに決まりなのよきっと!適当に言ったから知らないけど!?でもあんたらも知らないでしょ馬鹿だから!ねぇだからお願い素直に動いて!もう打つ手無いのよ!固まってんじゃ無いわよ!!疑うな馬鹿!!
「………補佐」
ん!?
釣れた!?
「補佐になれる…憲兵に近く…もうあれに怯えなくても……あ、ど、どけぇ!!」
「あっ!?て、てめぇ待てこら!!おっ、俺が憲兵になるんだぁぁ!!」
「ばっ、ふざけんなお前ら!俺が見つけるに決まってんだろうが!!」
キターーーーー!!
あたしの目論見通り、我が身可愛さで他人を押しのけて出世のチャンスをモノにしようと目の色を変えて手がかりを探し回るクズ集団。
さっきまであんなに仲良く怯えていたのに今は邪魔者扱いして殴り合う光景がまぁ滑稽だこと。あたしの手のひらで踊らされてこうなっていると思うと直接手を下すのとはまた違った快感があるものね……これも良いわぁ。
「さいっこう…、はっ!いけない!気を抜くとすぐ込み上げてくるわね…。あたしも探さないと、ってあぶな!?ちょっと誰よ!こっちに物投げんじゃないわよ!!」
鉄製の大きめの箱がこっちに目掛けて飛んできたので反射的にクズ集団に向かって叫んでみたけど誰もこっちの声が届いていない様子で醜い争いを続けている。
「ったくもう…、あっ、この箱中身空いてるじゃない。せっかくだし武器でもあれば……ん?」
ダメ元で飛んできた箱の中身を漁ってみると、丸められて紐で括ってある紙を見つけた。
まさかとは思いながら広げてみると明らかに地図っぽい内容の絵がびっしりと描かれていて、上の方にはバジエダと書かれた文字の下に城っぽい絵もしっかりと描かれていた。
「…………」
チラッと大人たちを見る。
あたしの様子を気付く訳もなく、大人たちは未だ必死に手柄をあげようと仲間割れを繰り広げている。
「ふっ」
なんかもう、本当に滑稽な集団すぎて思わず笑っちゃう。
協力し合ったらすぐに見つけれたのに何してんだろあいつら。まぁあたしがけしかけたことなんだけど…。
「さて、と、それじゃ次はこれか」
あたしは当然ながらクズ集団に声をかけることなく、背中にずっと張り付いていた魔力の塊?とやらを剥がして両手持ちで前に出す。
感触はあったから無くなっていない事は分かっていたけど、色が透明だから今もこうして触っていないと本当に存在しているものとはとても信じられない物体。
「っせい!」
それをあたしはヴァルグに言われた通り、目的達成の合図を送るために地面に叩きつけた。
「………これでいいんだよね?」
あたしの視界には何も起きなかったようにしか見えなかったけど、とりあえず言われた通りのことをしてから一応叩きつけた場所に触れてみて、そこにさっきまで触っていた物体の感触は無かったからちゃんと出来たのだと推測する。
「…よし、逃げよ」
その後もう一度だけクズ集団を見て、やっぱりこっちのことを気にかけている人は誰もいないことを確認してからその場から退散した。
※※※
おまけ《誰のせい?》
地下からの階段登り中。
ス「そいえばあんた、どこから急に現れたのよ?」
ヴァ「天井隅からだが?お前の能天気な姿もそっから見てた」
キュ『陰湿だよなー』
ス「キューイを治療する時触ってたけど、最初も元気じゃなかったんでしょ?檻あったのにどうやったのよ」
ヴァ「こじ開けたに決まってるだろ。そん時にお前が来たから試すために元に戻した」
キュ『何様だよなー』
ス・キュ「ねー」
ヴァ「………………よし」(出してた明かりを消す)
ス・キュ「うわぁぁ暗いぃ!!急に消すなバカぁ!!」
ヴァ「あ」
ス・キュ「あっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」(踏み外して転げていく少女とネズミ)
ヴァ「……俺が悪いのかこれ?」
※※※
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