第382話 2015年8月 27

俺に抱きついたリリィさんは、波の音が優しく沁み込む、波音だけが支配する浜辺で、穏やかに、次の句を継いだ。


「けんたろー……

でもね。


あのお姉さんは、けんたろーをよく見てて、けんたろーの事を大切に思っていて……それが分かるから、だから、私……


あのお姉さんとお話ししないで、みたいな子供じみた事を言うつもりは無いよ……

昔の事は昔の事だものね。


それでね……

だから……


でもね……


来年の花火では、1周年の花火を上げて欲しい。

私との1周年……

私達の時間を今夜から始めましょう……」


俺に抱きつく温かな身体は、それだけ伝えると小さく震えていた。じっと動かずに、ただ波の音が聞こえてくるそこで、彼女は、リリィさんは俺の答えを待っているのだろう……

そして、もしかしたら、また俺に拒まれるんじゃないかという想いが彼女の華奢な身体を振るわせるのだというのなら……


それは無いよ。

もう迷わない。


ありがとう……


リリィさん……


これからの俺は、君の事を大切な永遠のパートナーとして見ていくと決めたんだ。

だから……

もう、迷わない……


今夜から二人は始まるんだ。


「帰ろう……

リリィさん……


俺の家に」

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