第383話 2016年3月

高校2年生が終わる3月に、リリィさんは、


「けんたろー、私、明日、帰るんだけど、何か言うこと無い?」


俺の家に上がり込んで俺に正座させて、腰に手をあてて仁王立ちになり、きつめの視線を向けてくる。学校の帰りなのだろう。制服のまま家にやってきてヒートアップしている。


「お疲れ様でした」


「本気で言ってる? ねぇ!」


いや、いや。


「わ・た・し、か・え・る・ん・で・す・け・ど!」


「ハラショー」


「………………」


すっごい睨んでる。すっごい。


だって、遊びに一緒に行ったり、ご飯食べたりするとリリィさんは“ハラショー”って可愛く言っていたから……


使いどころを間違えたか。俺、痛恨のミス!


「帰っちゃうよ? いいの?」


いいも悪いも交換留学だろうに。


「いいの?


いいの?


いいの?」


凄む女子高生に俺は、どうすれば……

いや、わかっている。


わかってる。


「リリィさん、学校出たら、日本に戻ってくれる? 今度は俺からお願いするよ。戻ってきて、俺の為に、ずっと待ってる」


「え? そんなぬるい話するの?


あの日、海岸で泣きながら、私に許しを請うて、死ぬまで君を離さないって言ったあなたはどうしたの? 一周して、また同じ話?」


そんな事言った? 大筋間違ってないけど、ディテールで食い違いが……


怖くて言えない感じだ。


「ねえ!! 私の事、帰したくないの? 帰って欲しくないの???」


いや、両方同じ意味だから……、

キレかげんで仁王立ちから振り下ろす人差し指を俺の顔の前で調子を取って迫っている。


「帰したくない……けど、学校は出ないとね」


「学校出てないあなたが、そんなまともなこと言うの!」


いや、今、学校行ってますから、俺。


「私さ、

ここに、ね、


いられるように、さ、


手を尽くしたのに、ね、


肝心のあなたが、ね、


それで、どうするの、よ!


はっきり私に言って!


言いなさい!!」


はあ……

もう、しょうがない。

カンネンした。

降参だ。


「ここにいてください」


「こもってない……」


何が……


「気持ちがこもってない」


ああ……


「このぼろいおウチで良かったら、どうぞ、住み着いてください」


「私は座敷童か何かか!!」


座敷童、知ってんだ……


「けんたろー!!


私、今帰ったら、帰り際に抱きついて、キスの一つもして、目を潤ませながら、あそこの防波堤で待っててって、また適当に、言って、もう来ないよ!!


遠くの空の下で、ほくそ笑んでやるよ!!

どうすんのよ!」


おい、いい話……

否定すんなよ。


「だって、そんなの無理でしょう。色々、大人の話もあるはずだし……」


「けんたろー……

私が何の手も打たないで、そんな話するとでも?」

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