第380話 2015年8月 25

長かった……


俺は失うことのない家族をやっと手に入れたんだ。身体の奥から湧き上がる想いに満たされた。


そうか……

俺はそうなんだ……

ずっと欲しかったんだ……


ずっと……

ずっと無くならない、俺の家族が欲しかったんだ。


ただ、ただ……

嬉しい……


もしも、16年後の小学六年生を満島先生に誘われていなかったら、


もしも、小学生のリリィさんと防波堤で会わなかったら、


キョートーに学校を追い出されたときに、そのまま終わっていたら、


地震が起きなくて、原発の事故が起きていなかったら、


俺は、俺とリリィさんはこんな風になっていたのだろうか?……


いや、それはきっと、関係ない。


俺は、きっと彼女に会うために……

ずっと待っていたんだ。


きっと、何が有っても、俺達はどこかで交わっていた。


歳の離れた大切な友は、歳の離れた大切な家族になった。


「ありがとう……

リリィさん……


事案になるから、言えなかったけど……


俺……


ずっと……


昔から……


君のことが……


大好きだったんだ……」


リリィさんの大きな瞳から流れる涙が頬を伝う。

蒼い月に照らされた潤んだ瞳が俺を映していた。


彼女の温かく柔らかい身体を抱き寄せ……

頬に伝わる涙を指でそっと拭い、俺は薄く柔らかい彼女の唇を求めて……


これからも変わらない想いを誓った。




静かに砂浜に沁み込む波の音が支配する永遠の静けさのなか、時折彼女の甘い吐息が漏れていた。

やがてリリィさんは、俺の肩に手を当てて、唇を離し、吸い込まれそうな澄んだ瞳で俺を見つめ、掌を俺の頬に当てて、ゆっくり言葉を継いだ。


「けんたろー……私……今日、お泊りの許可貰てきちゃったの……私……今夜、帰る場所無いの……だから……いいでしょう? けんたろーのお家に泊っても……


悔しいの……


15周年とか……

けんたろーがその人をずっと思ってるって思ったら、負けたくないって……


だから……

私……


あのお姉さんから、けんたろーを奪いたいの……」


気が付いたのか……

リリィさん……

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