第345話 2015年5月 26

「リリィちゃん……

あんた……


健太郎に会った?」


「ううん……

これから行くの……

あの防波堤……に」


「そうか……

でもさ……

健太郎……

いないと思うよ……」


「え?……」


どうして?

言葉に詰まった。

どうして?の一言が出なかった……


私のイヤな予感が……

勘がいいと言われる私の勘が、それを拒んだ。

きっと……


ヤな事が起こる……


「健太郎は、諦めたんだよ。

ずっと待つのに疲れて……


もう……

だから、あそこに行くのは辞めるって……

そう言って、今は行ってないよ。


リリィちゃん……


もし、あんたが、軽い気持ちでけんたろうーに会いに行こうとしてるのなら、辞めてくれないかな?


健太郎からあんたを、忘れさせてあげて……


健太郎は、ずっと、あんたを、ずっとあそこで一人で待ってたんだよ……

それは気が遠くなるくらい長い時間を、あんな場所で過ごしたんだ……


4年間だよ……


そりゃあ長かったと思うよ。

暑くても寒くても雨が降っても、雪が降っても、台風でも……


ずっと、ずっと待ってたんだ……


知ってるかい?


健太郎は、仕事辞めたんだよ。


なんでだと思う?

リリィちゃんを防波堤で待つためにさ。


だから、辞めたんだ。

いつあんたが、ただいまって戻ってきても、いいようにね……


わかる?

どれほど、健太郎は、あんたの事が好きだったか……


あんた酷いね。


健太郎にその間、なんの連絡も無しで……

それで、戻ったから、おひさ~とでも言って、何事も無かったかのように健太郎に会いに行くんだ……


酷いよ。

リリィちゃん……


酷すぎるよ……


リリィちゃん……

やっと、健太郎は、歩き出したんだよ。

未来に向かって……


だから……

もう、健太郎を迷わせないで欲しい。


いまさら、帰ってきたって言って、健太郎の前に現れないでやって欲しい……

できるなら、このまま……


健太郎に会わないでやって欲しい。

お願いだよ」


健太郎のお姉さんはそう言うと、下を向いて肩を震わせていた。

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