第122話 未海さん4

「リリィさんは、このことについてどう思っているの? 正直な気持ちはどうなの? 本当に何も思っていないの? 君はそんなに物分かりがいいの?」


腕の中でうなだれていた、リリィさんは俺の顔を見上げて、じっと俺を見つめて動かない。

もの言いたげな視線に変わったリリィさんは、言いたい事を言えずにいるように俺には見えた。


そうだよね。君にだって言いたい事はあるはずだよ。リリィさんの口元が何かを言いたげに少しだけ動いている。


「言って」


俺は彼女の目を見て言葉を促した。


「……ずっと、ずっと思ってた……


何で、未海ちゃんはあそこにいたの?


何であの時、溺れたの?


いなければ良かったのに!


何してるの!!


何でパパは……パパは未海ちゃんを助けたの?


助けなきゃいけなかったの?


何で死んだのが……パパなの?


あああああー」


リリィさんはずっと、ずっと言いたかっただろう言葉を吐きだした。


誰にも言わなかった、大人のリリィさんは、物分かりのいい大人のリリィさんは、誰にも言えなかった。


決して、恨みの言葉を吐くことを良しとしなかったのだろう。俺には、俺にだけでもそう言って甘えてくれれば良かったのに。思いの内をほんの少し俺に言った後、俺に身体を預けて激しく泣きじゃくり、言葉にならない言葉をいくつか継いでいた。

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