第33話 追憶7

 その後も、俺の生活は何も変わらなかった。昼は学校へ通いながら、母さんが、何処かに行ってしまうのではないかと、行かないでくれと、一日中、案じながら、下校して、玄関に母さんの靴があると安心した。そして、夜は母さんを探す。そんな生活が3か月くらい過ぎた頃、


母さんが、薬を飲んだ。大量の薬を飲んで布団の中で苦しんでいた。


「母さん? 母さん!」


俺は、隣の布団で、苦しむ母さんのようすを不審に思い声を掛けたが、苦しむだけでまともな会話が成立しなかった。父さんは……夜勤だ。家にはいなかった。


俺にはどうしてあげる事も出来なかった。子供の俺は救急車なんて呼ぶこともできずに、俺は、どうしようもなくなって、街に走り、煌びやかな通りを通って、おじさんを頼った。あの雨の日に声を掛けて、助けが欲しくなったら、来いと言ってくれたおじさんの言葉を信じ俺は、店に、おじさんがいるだろう店に走った。


店が見えてきた時、店の前に、入り口の前には、知らないおじさんがいた。俺は、足がすくんだ。そこで、立ち止まり、声を掛けようかどうしようか、少しはなれた所から見ていた。そんな時、


「あら? この間のお兄ちゃんじゃないの。 どうしたの?」


俺の背後から、女の人が声を掛けてきた。きれいな洋服を着て化粧もして、母さんとは明らかに違う“女の人“、この間、事務所で会ったお姉さんだった。


俺が、必死の表情をしていたのだと思う。振り返った俺を見た、そのお姉さんは、


「早く、着て。店長に話があってきたのね」


そう言うと、俺の手を取って足早に店の中へと連れて行ってくれたのだ。


「……よう、健太郎。よく来たな……」


事務所にいたおじさんは俺を見て、何か書類を書いていた手を止め、俺の方へと向き直り、俺を見ると、


「……どうした?」


にこやかだった表情を険しくして、俺に聞いて来た。


「母さんが、母さんが薬を飲んで苦しんでて、どうしていいかわからなくて、怖くて、怖くて」


「かあちゃん、今どこにいるんだ?」


「家」


「よし、良く俺んとこに来たな、今すぐ行くから、案内しろ、おい! 薫、お前も来い」


「あたし、これから予約入ってるけど……少し待たせてもいいね、お兄ちゃん行くよ!」


俺に声を掛けてきたお姉さんと店長は俺の家に一緒に来てくれて、救急車やら、病院の事や一切をしてくれた。でも、夜勤の父さんには、職場のホテルにいるはずの父さんには、電話したけど、電話してくれたけど、連絡が付かなかった……

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