第2話
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「おはよう、佐藤さん」
「おはようございます」
「佐藤さん、おはようございます」
「はい、おはようございます」
俺は、今、大人気者になっている。間断なく挨拶をかわす周りのご学友。教育が行き届いたご家庭なのか、はたまた先生の教育の賜物なのか、とにかく言える事は、教室の一番後ろの窓際の机に座るどこか身の置き場を求めてそわそわしている俺に、彼、彼女たちは何ら分け隔てなく挨拶をくれ、笑顔で言葉を継いでくるのだ。
教室は、2m幅の廊下から入ると、7名×5列の並びに、整然とまでは言えないが、まあ、ある程度整って列を成し、正面の黒板へと向いている。正面の黒板の前に教壇があり、その横、教室の前側一番奥に先生の机がある。最近珍しい床が木造の昔からある学校だ。
「佐藤さん、昨日のアップされてた動画見た?」
「え? まだ、見てないです。今晩……見れるかな、時間空けてみますね」
隣の席の大垣君が自分の中のはやりものの動画についてフォローを入れてきた。昨日だったか?その話題が俺と大垣君の間でやり取りをして……たしか、“見てみます”とかなんとか、大人な回答をしたはずだが、大垣君にはその辺の機微が伝わらず、今、こうして“見てねぇのかよ“といった感じに落ちいっている。
「佐藤さんはお家に帰ったら、何してるの?」
俺の前の席に座り、身体を横に向けてお話ししてくれている、将来有望な美少女、佐々木
……嘘だ。念のため。
くっきりはっきりのお顔立ちに少し茶色の髪の毛をポニーテールにして、お目目が可愛らしい、このクラスの一推し!
未海さん、可愛い~。
もう一度言う、ロリには興味がないぞ。念を押しておく。
「お家に帰ったらですか……大抵は、ご飯を食べてお風呂入って寝ます」
俺は嘘をついた。
実は、俺は勤労児童なのだ。小学校が終わると、夕飯を家で食べて、歩いて10分の勤務先へと向かう。
何故、嘘をついたのか……そうだな。それは小学生に詳細を教えたくない、知られたくない。からだ……
可愛い未海さんが笑顔でお話を継いでくるのをBGMにしながら俺はふと外の景色を眺めていた。
俺の左側には窓があり、比高30mの海岸段丘の上にある学校は、遠くには太平洋が望め、それは、朝の陽ざしを受けてキラキラと輝いて、海岸部には港が見える。海岸平野に這うように形作られた街並みは、朝の忙しい時間を行きかう車列が見て取れる。
視線を手前に落とせば、校庭゙が見え、校庭の端には、緑色のフェンスがあって、そのフェンスに沿うように桜の木々が植えられていて、今、まさに桜色の花びらが木々とグラウンドを覆いつくし、時折吹くそよ風に花弁を散らしながら、南東北のこの地に春の新学期の風景を映し出している。
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