第31話 繋いだ手

 一斉討伐から約一週間が過ぎた。

 あれから黒いあざに反応しない新種の日陰者は現れない。

 少女の姿をした魔を完全に消滅させることができたようだ。

 しかし他の魔が人間の悪玉を刺しているのか日陰者は定期的に発生している。

 そのたびに僕たち化物退治屋が倒してまわっている。

 それでも以前よりは、秋葉市内の事故や事件の発生件数は減っているように思う。



 晴れ渡る空の下、僕は神代とお墓参りに来た。彼女の父親で邪行の先輩で元共犯者のお墓。お墓をきれいに掃除してからお供え物や線香をあげてしっかりと手を合わせて拝む。

 神代の父は日陰者としてまだ能力が不完全だと言っていたが、僕はなんとなく違うと思っている。縄の本数が少なかったのも、縄がゆるんで逃げられたのも、すべて神代の父親の善玉が強く働いていたのではないだろうか。

 邪行の影の力は悪玉によって強さが変わる。だが敵として娘と戦いたくないと思い、善玉を強く意識することで力を弱めていたのではないか。だからこそ、横田が刃物で襲いかかった時も再び現れて神代の危機を救ってくれたのではないか。

 しかし、今となってはなにもわからない。

 いくら考えたところで答えは見つからないのだ。

「そんなに長く拝んでお父さんとなにを話しているの?」

 僕が目を開けると神代が笑顔で見ていた。今日の彼女の服装はとても明るい。今まで黒や灰色など暗い色の服しか見たことがなかったから新鮮だ。なんでも敵を討ったから喪に服す期間は終わったらしい。

 その服装は神代に似合っていると思う。それになぜか僕の胸がときめく。

「ありがとうございますって。お父さんのおかげで勝てたようなものだから」

「そっか。私といっしょだね。私もあの時言えなかったから。ありがとうって」

「それから……」

「それから……?」

「これからは僕が朝日さんを守ります。一生守りますって……あれ? どうかしたの?」

 なぜか神代は耳を真っ赤にしている。



 彼女はゆっくり僕の手をつかんで自分の手と見比べる。

「手首の黒いあざ……前よりも濃くなってるね。すごく痛むでしょ?」

 僕は黙って首を横に振る。嘘に気づいた神代の顔が曇ってしまった。

「私が言えたことじゃないけど、真木野は悪に手を染めたこと……後悔していない?」

「後悔なんてしてないよ。これまでもそうだし、これからもしない。絶対にしないよ」

 今度は嘘じゃない。

 むしろ神代には感謝したいくらいだ。

 僕を選んでくれてありがとう、と。

 神代は僕の手を握ったまま立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。

 今は昼間でお天道様がのぼっている。

 だから手をつないでいても邪行の影の力は使うことができない。

 しかし……。

「これからもよろしくねキサラギ。あなたには私の手をずっと握っていてほしい」

「こちらこそよろしくジャック。僕はこれからも君の隣にいるよ」

 その手は、朝日を浴びたようにぽかぽかと温かい。

 僕はずっと握っていたい。そう思った。

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キサラギジャック 川住河住 @lalala-lucy

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