第7話 解説 ぶちぶち千切れてるぜ問題

 まずはこちらの文章を読んでみてください。

 短いから大丈夫ですよ。


❋❋❋


 枝豆くんは叫んだ。

「待ってくれおからちゃん!」

 おからちゃんは逃げる。全力で走っている。

 枝豆くんはおからちゃんに謝りたかったのだ。ぼくが最後のプリンを食べたばっかりに。本当にごめん。おからちゃんはゼリーでいいだろとか思ったぼくが間違ってた。

「ごめんおからちゃん! ぼくが間違ってた! ちゃんと新しいの買ってくるから!」

 枝豆くんがまた叫ぶ。

 おからちゃんが振り返る。

 振り向いたその顔は、泣いてなかった。

 鬼のような形相だった。

「枝豆くんのばか!! そういうことじゃないの!!」


❋❋❋


 はいこれ。ぶちぶち千切れてる問題がどこにあるか、わかるでしょうか。


 選択肢A

  おからちゃんは逃げる。全力で走っている。


 選択肢B

  枝豆くんがまた叫ぶ。

  おからちゃんが振り返る。

  振り向いたその顔は、泣いてなかった。

  鬼のような形相だった。




 正解はですね、Bです。


 この『ぶちぶち千切れてるぜ問題』は、おそらく誰もが一番やってるやつかと思います。書きなれない人から、意外に書きなれてる人まで、幅広く見かけます。

 そもそも、なぜここが問題なのでしょう。

 そしてなぜAは問題じゃないのでしょう。

 ひとつずつやっていきましょうね。


 まず、そもそもAとBはなにが違うのでしょうか。それは「効果の有無」です。

 「効果の有無」ってなぁーあに。

 そうである必要があるってことだよ!

 分かりませんよね。笑 わたしはこんなこと言われても分かりません!


 簡単にいえば、Aは短文を重ねることによって、「緊迫感」を出しているんです。

 言い換えると、緊迫感を出すために、短文を重ねる必要があるということです。

 枝豆くんは叫んでますね。慌てていると思います。なぜかというと、走って逃げてるおからちゃんを引き止めたいからです。

 でも、こんなにのんびり書いていては、慌てた気持ちが出てきません。だから、枝豆くんの「焦りを表現する」ために、短文を重ねる必要があるんですよ。


 ではBはどうでしょう。

 おからちゃんが振り返ってくれています。つまり、枝豆くんの「焦り」は、ここで一度切れるかと思います。緊迫する必要がなくなりましたね。

 まあ振り向いたら鬼だったので、さっきとはまた違った冷や汗が流れそうですが、それは顔を見たから分かることです。最初の「焦り」と、あとからくる「冷や汗」の間に、つかの間の「ほっとした瞬間」があるはずです。

 それがよりきちんとわかったほうが、話の流れに緩急がついて、読む人が枝豆くんの気持ちに寄り添いやすくなりますね。

 ほっとしたと直接書かなくても、文章を直すだけで表現できますよ!

 じゃあ直していきましょう。


 まず、そもそもなんでこんな短文が続いているかというと、理由はひとつです。

 言葉が足りないから。

 さーて魔法をかけますよ!

 4つの文が変わります! そーれ!!


B

 枝豆くんがまた叫ぶ。

 おからちゃんが振り返る。

 振り向いたその顔は、泣いてなかった。

 鬼のような形相だった。


C

 枝豆くんがまた叫ぶ。

 すると、おからちゃんは足を止めた。

 ゆっくりと振り向いたその顔は、泣いてはいなかった。

 鬼のような形相。


 どうでしょう。どっちが読みやすいですか?

 これでBが読みやすいと言われるとアレなんですけど、わたしならCの姿に直します。

 これを元の例文に当てはめてみますね。最初から読んでみてください。


❋❋❋


 枝豆くんは叫んだ。

「待ってくれおからちゃん!」

 おからちゃんは逃げる。全力で走っている。

 枝豆くんはおからちゃんに謝りたかったのだ。ぼくが最後のプリンを食べたばっかりに。本当にごめん。おからちゃんはゼリーでいいだろとか思ったぼくが間違ってた。

「ごめんおからちゃん! ぼくが間違ってた! ちゃんと新しいの買ってくるから!」

 枝豆くんがまた叫ぶ。

 すると、おからちゃんは足を止めた。

 ゆっくりと振り向いたその顔は、泣いてはいなかった。

 鬼のような形相。

「枝豆くんのばか!! そういうことじゃないの!!」


❋❋❋


 すごくちっちゃい変化だったかと思います。

 でもほんの少しを直したことで、全体の流れに違いが出たのが伝わるでしょうか? 伝わらなかったらごめんね!


 よく見かける「千切れてるなあ」と思う場面は、文頭が足りないことが多いです。

 さっきの「すると、」のあたりですね。

 セリフとセリフの間の一行、とかによく見かけます。

 多分、書きながら乗ってるところなので、頭のなかにあるものを慌ててそのまま書いている状態のときに、そうなるんじゃないかな、とわたしは思ってます。

 是非ご自分の作品をちらっと見てみてください。

 多分ありますよ。笑




 次回は『句読点って意外と大切なんですぜ問題』です♡

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る