第23話 懐かしい本

 私は、イルディンとともに自室に戻って来ていた。

 明かりをつけて、一度眠れなければならないことはきっぱりと忘れる。これから、眠たくなるまで弟と語り合うのだ。


「ベッドでいいわよね?」

「え?」

「寝転がりながら、話したいの。その方が落ち着けるし、いいでしょう?」

「まあ、姉さんがそれでいいならいいよ」


 私は、語り合う場所をベッドの上に選んだ。

 そこなら、寝転がってリラックスできるからである。

 幸いにも、私の部屋のベッドは大きい。二人で寝転がっても、余裕の広さである。


「さて、イルディンはどんな本を選んだのかしら?」

「ああ、本は適当に選んだよ」


 二人でベッドに寝転がってから、私は本を確認した。

 イルディンが適当に選んだという本には、見覚えがあるものばかりだ。

 本人は無自覚なのかもしれないが、適当に選んだという訳ではないだろう。


「昔から読んでいた本が多いわね?」

「え? そうかな?」

「無意識かもしれないけど、そういう本を選んでいたのよ。どれも、小さな頃からあった本だわ」


 イルディンが選んだ本は、私達が小さい頃から読んでいた本ばかりだ。

 新しい本ではなく、懐かしい本を選んでいたのである。

 だが、その選択は悪くない選択だろう。いつかは眠らなければならないのだから、あまり続きが気になるような本を読むべきではないはずだ。

 ここにある本は、全て内容を知っている。知っていても、面白い本ばかりだ。今のイルディンの状態を考慮すると、こういう本を選んだ方がいいのではないだろうか。


「もしかして、懐かしくなっていたのかな?」

「そういうことかもしれないわね」


 しかし、今回イルディンは無意識に選んだと言っていた。

 そのため、私が考えていたようなことは思っていなかったということである。 

 つまり、イルディンは単純に無意識の内に懐かしと思う本を手に取っただけなのだろう。


「自分でも気づかないで、そんな本を選ぶなんて、なんだか少し恥ずかしいよ」

「別に、恥ずかしがることではないわ。昔を懐かしむことは悪いことでもないし」


 イルディンは、少し恥ずかしがっていた。

 自分が、無意識に選んだと思っていた本に共通点があったため、そのようになったのだろう。

 だが、別に恥ずかしがることではない。ただ、イルディンがこの懐かしい本達が好きなだけなのだから、何も問題はないのである。


「本当に懐かしい本ばかり……あ、これなんかは私が大好きだった本ね」

「あ、うん。昔からよく読んでいた本だね」

「イルディンは、どの本が一番好き?」

「どの本か……それは、中々難しい質問だね」


 内容はほとんど覚えている本だったため、私達は本を読むことなく盛り上がっていた。

 これなら、存分に語り合えるだろう。そうしている間に、眠くなることを願うばかりである。

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