第22話 眠れない夜

 私は、書庫の中でイルディンと出会っていた。

 こんな夜中に、何故書庫にいるのか。その理由は、なんとなく察することができる。


「イルディン、もしかして、眠れなかったの?」

「え?」


 イルディンは眠れなくて、この書庫に来たのだ。

 それは、間違いないだろう。なぜなら、私も同じ理由でここに来たのだ。こんな夜中に、ここに来る理由など、それしかない。

 私に色々と言っていたが、イルディンも眠れなくなっていたようである。やはり、事件の容疑者になっていることが心配なのだろう。


「……姉さんこそ、眠れなかったみたいだね?」

「まあ、そういうことになるわね」


 私とイルディンは、お互いに笑い合った。

 まさか、こんな時間でこんな所で出会うとは思っていなかった。お互いにそう思って、自然と笑みが零れてしまったのだ。


「というか、姉さん。そんな恰好では、風邪を引いてしまうよ? 僕の上着を貸してあげるから、羽織った方がいいよ」

「え? 別に大丈夫よ。それに、そんなことしたら、あなたが風邪を……」

「いいから」


 私と違ってきちんとした弟は、寝間着の上に一枚羽織っていた。

 その上着を、イルディンは私にかけてくれる。有無を言わさず、そうしてくれたのだ。

 上着一枚でも、結構温かさは違う。これを渡してくれるイルディンは、本当に優しい弟である。


「ありがとう、イルディン」

「どういたしまして。それで、姉さんは本を探しに来たの?」

「そうね。でも、もう本はいいかと思っているわ」

「え? そうなの?」


 眠れない弟と出会ったことで、本はもういいと思っていた。

 それよりも、もっと眠れない考えを消してくれる存在がいるからだ。

 恐らく、私が今から提案することは断られないだろう。そのような信頼感がある。


「イルディン、私の部屋に来てくれない?」

「え? 姉さんの部屋に?」

「ええ、眠れないから、しばらく話したいの?」

「ああ、そういうことか。それなら、僕も大歓迎だよ」


 私の予想通り、イルディンは提案を断らなかった。

 本を読むよりも、弟と話している方が、眠れないという事実を忘れられるはずだ。何より、イルディンと一緒なら明日からの不安が忘れられる。頼りになる弟が傍にいると、安心できて、不安が消えるのだ。


「それなら、この本は片付けようか」

「あ、でも、それも持って行きましょうか。せっかく選んだ本だし、それを見て語り合うというのも悪くないと思うし」

「そっか、それなら持って行こうか」


 しかし、イルディンが選んだ本は持って行くことにした。

 弟と話すことなどいくらでもあるが、何か話の種があった方が盛り上がると思ったからである。事件のことを考えないためにも、この方がきっといいだろう。

 こうして、私はイルディンとともに自室に戻るのだった。

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