第21話 夜中に書庫で

 騎士達に色々と言われた夜、私はベッドの上で天井を見ていた。

 どうしてもこれからのことが不安で、まったく眠れないのである。

 眠れないと思うと、眠らなければならないと思ってしまう。そうすると、さらに眠れなくなるのが人間の性である。

 つまり、私はまったく眠れる気がしていない。恐らく、このままベッドの上にいても、時間の無駄だろう。


「よし……」


 私は思い切って、ベッドの上から立ち上がった。

 こういう時は、いっそのこと寝転がるのもやめるべきだ。気分転換して、眠気がきたら寝ることにしよう。

 という訳で、私は部屋の外に出て行く。少し歩いて、気分転換するのだ。


「どこに行こうかしら?」


 とりあえず、私は目的地を決めることにした。

 ただ歩くよりも、どこか目的地を決めた方がいいだろう。漠然と歩いていると、ずっと歩き続けてしまいそうだ。

 いくら気分転換するといっても、いつかは眠らなければならない。そう考えると、落ち着ける場所がいいだろう。


「書庫?」


 という訳で、私は書庫辺りに向かうことにした。

 書庫まで行って、何か本でも持って帰って来よう。そうしている間に眠くなるかもしれないし、部屋で本を読んで眠くなるかもしれない。気分転換という面も考慮しても、悪くない選択ではないだろうか。


「少し寒いかしら……」


 書庫を目指して歩きながら、私は少し肌寒さを感じていた。

 よく考えてみれば、夜というのは温度が下がる。何か上に羽織るものでも持って来ればよかったかもしれない。

 ただ、そこまで気にするものでもなかった。寒いといっても、そこまでではない。行って本を選んで帰ってくるだけなので、それ程時間もかからないため、きっと大丈夫だろう。

 そう思ったため、私は部屋に戻らず歩いて行く。思った通り、そこまで温度は気にならない。


「暗いのは……少し怖いかもしれないわね」


 当然のことだが、家の中は暗かった。多少の明かりはあるが、それでも少しだけ恐怖を感じてしまう。

 静かなのも、その恐怖に拍車をかけていた。人が生活する音でも聞こえていれば違うはずだが、皆眠っているこの時間に聞こえるのは、自分の足音だけだ。

 しかし、それでも慣れ親しんだ家であるためか、進むことはできる。どうせ何も起こらない。そのように思いながら、私は書庫を目指す。


「え?」


 そんな私の耳に入ってきたのは、何かが擦れるような音だった。

 静かだった廊下に、その音は突然響いてくる。

 こんな夜中に、変な音が聞こえてくるのはとても怖い。だが、別に誰かが起きていたりしても、おかしくはないだろう。その人が、椅子を引いたりしただけなのではないだろうか。

 というか、そうでないとすごく怖い。私は、そうだと信じて、書庫に向かって行く。


「よし……」


 何も考えず、私は書庫まで辿り着いていた。

 ここまで来れば、とりあえず安心だ。後は、本を選んで変えるだけである。


「あれ?」


 そう思った矢先、書庫の中から先程と同じような音が聞こえてきた。

 どうやら、音が鳴っていたのは書庫の中からのようだ。

 こんな夜中に、書庫に誰かいるのだろうか。なんだか、私はとても怖くなってきた。


「……」


 だが、ここまで来て引き返すつもりもなかった。

 書庫の中で何が起こっているのかも気になるので、私はゆっくりと戸を開けていく。


「……え? 姉さん?」

「イルディン……」


 戸を開けた私の目に入ってきたのは、弟のイルディンだった。

 可愛い弟は、書庫の中で本を探している。どうやら、先程の音は、イルディンが台を動かした音だったようだ。

 こうして、私は夜中に書庫で弟と出会ったのだった。

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