第20話 甘えながら

 私は、イルディンに膝枕してもらっていた。

 弟の温もりが感じられるこの場所は、私にとってとても落ち着ける場所である。


「姉さん、本当に疲れているみたいだね……」

「ええ、本当に疲れているのよ……」


 私は、イルディンの膝を撫でながらそのように呟いていた。

 もう自分の本心を隠すことはない。素直になって、優しい弟に甘えるのだ。

 このまま誰かに甘えないでいると、私は壊れてしまうだろう。そういう面も考えて、ここは一度全て吐き出しておくべきなのである。


「姉さんは不安でいっぱいだとは思うけど、けど、きっと大丈夫。真犯人が見つかって、僕達の容疑は晴れるはずだよ」

「そうだといいけど……でも、あの騎士達が事件を解決できるとは思えないのよね」

「確かに、あの二人のような騎士だったら、解決は難しいと思う。でも、ダルケンさんのような騎士もいるみたいだから、そこまで心配しなくていいんじゃないかな?」

「まあ、それもそうなのよね……」


 イルディンの言葉は、納得できるものだった。

 確かに、ダルケンさんのような騎士は信頼できる。

 だが、ダルケンさん以外の騎士が信頼できないため、心配なのだ。

 私達が関わった騎士は、今の所は三名である。その内二名が駄目な騎士だ。その比率だけ知っていると、かなり不安なのである。


「不安なのはわかるけど、ずっと気にしていても仕方ないことだよ。僕達はいつも通り生活を続けていればいい。何もしていないのだから、気にせずにいればいいのさ」

「でも……」

「気にしていても無駄なことだよ。それでどうにかなることではないし、気を楽に持っているべきだと思うよ」


 不安になっている私に対して、イルディンは穏やかに語りかけてくれた。

 もちろん、私も優しい弟の言葉を理解できない訳ではない。気にしてもどうすることもできないのだから、そこに神経を使うのは無駄なことだ。

 それはわかっているが、それでもどうすることができないのである。私が気にしたくないと思っても、どうしても気になってしまう。それは。自分で制御できることではないのだ。


「そんなに簡単ではないのよね……」

「うん。それもわかっている」


 賢い弟は、私が気にしないことなど無理だとわかっていた。

 それは、当然だろう。心配性の弟は、口ではこう言っているが、私と同じタイプだ。事実、私の婚約破棄の時にはかなり参っていたようなので、私がどのような心情かは理解しているのだろう。

 結局、私達姉弟の心配性はどうすることもできない。今回の場合は、事件が解決するのを待つしかないということなのだろう。

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