第18話 弟の願い
私とイルディンは、騎士のダルケンさんと話していた。
そこで、ガルビム様の浮気相手であるシメール様が、犯人なのではないかという話がイルディンから出たのである。
驚いた私だったが、それはそこまでおかしなことではない。その狂信的な愛を捧げている先が、浮気性の男なら、それが恨みに変わることはかなり自然なことである。
「噂というものは、信用できないものもあります。ただ、ガルビム様の噂に関しては、一考の余地があるものばかりだと僕は考えています」
「ほう? それは、どういうことですか?」
「彼が手を出したとされる人数は、実に十人以上いるとされています。もちろん、既に終わったと思われるものもありました。ただ、まだ続いているものもあったということです」
ダルケンさんに対して、弟は雄弁にそう語った。
その言葉に、ダルケンさんは口の端を少し歪める。
イルディンが言いたいことは、なんとなくわかる。ガルビム様は、様々な相手と関係を持っていた。
だから、狂信的な愛を抱いていたシメール様が犯行に及んでもおかしくはない。そう言っているのだろう。
「イルディン……そんなに色々な噂を知っていたの?」
「ああ、彼に関しては、姉さんには内密で色々と調べていた。現場を押さえたりはしていないけど、色々と噂は出てきたよ」
「そうなのね……」
ガルビム様が、一人や二人に手を出している訳ではないことは、私もなんとなく察していた。
だが、イルディン程の情報は持っていなかった。どうやら、心配性の弟は、姉の婚約者について色々と調べてくれていたようだ。
「そういう噂を考慮するなら、シメール様は充分に怪しい。騎士団は、そういう結論を出していないようですが、少なくとも僕はそう思っていますよ」
「ええ、それは一考するべきことでしょうね」
「正直、騎士団というものは完全に信用できません。一部の人間は姉さんを犯人だと決めつけている。可能性を考慮することを批判するつもりはありませんが、このままでは彼等は間違った結論を信じて突き進みます」
「そうかもしれませんね」
イルディンは、少し語気を強くしながらそう言っていた。
ただ、それは怒っているという感じではない。悲しそうに、そう言っているのだ。
賢い弟は、目の前の人物がまともな騎士であることをわかっている。だから、彼に怒りをぶつけるようなことはしないのだ。
「それを止められるとしたら、あなたのような人だけです。どうか、真犯人を突き止めてください」
「もちろんです。最も、私はアルメネア様が犯人である可能性も、あなたが犯人である可能性も捨てません。あくまで、私は真実を突き止めます」
「ええ、それで構いません」
イルディンは、ダルケンさんに真実を突き止めて欲しいと願っていた。
確かに、前の二人のような騎士では、とても真実に辿り着けないだろう。ダルケンさんのような正常な思考ができる人でなければ、事件は解決されないはずである。
こうして、私達とダルケンさんの話は終わるのだった。
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