第11話 疲れていた弟

 私は、イルディンに膝枕をしていた。

 こういう面だけ見ていると、まだまだ小さな子供の様に見える。可愛い弟の内面は、そこまで大きく変化しているという訳でもないようだ。


「ふう……」

「イルディン? どうかしたの? 私の膝枕、嫌?」


 私の膝の上で、イルディンはため息をついていた。

 なんというか、その顔は少し疲れているように見える。

 そういう顔をされると、心配になってしまう。無理やり膝に寝転がってもらったが、もしかして思ったより心地よくなかったのだろうか。

 それなら、すぐにやめてもらっても構わない。これは感謝のために行っているのだ。嫌な気持ちになるなら、まったく意味がないことである。


「あ、そういうことではないよ。なんだか、ここ最近の疲れが一気にきて……」

「ここ最近の疲れ?」

「実は、最近あまり眠れていなくてね。姉さんの婚約がどうなるか、気になってしまって……」

「そ、そうだったのね……」


 どうやら、イルディンは私の膝が嫌という訳ではないようだ。むしろ、落ち着けたため、疲れが出てきてしまったようである。

 イルディンが、最近眠れていなかったというのは驚くべき事実だ。そこまで、私のことを心配してくれているとは、なんて優しい弟だろう。

 同時に、何も考えずぐっすり眠っていた自分が嫌になった。弟が心配してくれているのに、何を安眠していたのだろうか。私は、かなり能天気だったようである。


「もし眠れるのなら、このままここで眠っていいわよ?」

「え? でも……」

「ここなら落ち着けるのでしょう? それなら、眠った方がいいわ。私は平気だから」

「姉さん……」


 イルディンが眠れるのなら、このままここで眠ってもらっていい。私は、そのように思っていた。

 今まで眠れなかったなら、眠れる時に眠っておくべきだ。睡眠は疲れに一番良く効く。私は平気なので、できればぐっすり眠って欲しい。


「……その言葉に、甘えさせてもらおうかな」

「ええ……子守歌でも歌ってあげましょうか?」

「いや、それは流石に……」


 意外にも、イルディンは私の提案をすぐに受け入れた。

 それ程に、疲れているということなのだろう。

 そんなことを思っている間に、心配性な弟は目を瞑っていた。どうやら、既に眠気は来ていたようだ。

 私は、ゆっくりとイルディンの頭を撫でる。すると、すぐに寝息が聞こえてきた。

 相当疲れていたようである。ゆっくりと眠ってもらうとしよう。

 弟の穏やかな寝顔は、中々可愛いものだ。この寝顔を見ているだけで、幸せになってくる。しばらくは、この寝顔を楽しませてもらおう。

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