第10話 お礼として

 私は、お父様との話し合いを終えて、自室に戻って来ていた。

 色々と話したいことがあったので、イルディンにもついて来てもらっている。


「姉さん、本当におめでとう。これで、姉さんも長年の苦労から解放されるね」

「ありがとう、イルディン。こうやって解放されたのも、あなたのおかげよ」

「僕がしたことなんて、些細なこと……いや、そういうのはやめようか。今は、ただ喜ぶべきだね」


 ソファで並んで座りながら、私達はそのように言葉を交わした。

 イルディンは謙遜しようとしたが、珍しくそれをやめていた。今が、そういう空気ではないことを理解したのだろう。

 最近は、イルディンによく注意をしていた。それが効いたから、このような判断をしたのかもしれない。

 弟の成長を、私は嬉しいと思っていた。ただ、同時に少し物足りないという気持ちもある。情けないことだが、私はイルディンを諭したりすることに、幸福を感じていたようだ。

 そういうのは、良くないだろう。私も、弟の成長を素直に喜べるように、成長しなければならないようである。


「ねえ、イルディン。私は、本当に今回、あなたがしてくれたことに感謝しているの」

「え? あ、うん」

「そこで、あなたに何か恩返しがしたいわ。何か、私にして欲しいこととかある?」


 そこで、私はイルディンにそのような提案をしていた。

 今回の感謝、そして弟の成長を喜ぶために、イルディンに何かしてあげることにしたのだ。


「して欲しいこと?」

「ええ、イルディンの言うことを、なんでも聞いてあげるわ」

「なんでも……」


 私の提案に、イルディンは少し考えるような仕草を見せた。

 よく考えてみると、これは難しい提案だったかもしれない。して欲しいことと言われても、そんなに思いつくものではないだろう。

 何かプレゼントをするとかの方が、感謝の気持ちは伝えられたのではないだろうか。なんというか、弟の成長を喜ばなければならないという気持ちが先行して、変な提案をしてしまった気がする。


「それなら……膝枕とか」

「あら?」

「あ、いや、忘れて。なんでもない」


 そんなことを思っていた私だったが、イルディンは意外にもすぐに答えを出してくれた。

 どうやら、私に膝枕をして欲しいようだ。

 その提案をしてくるとは、少し驚きである。だが、同時に嬉しく思う。

 この弟は、まだ姉に甘えたいという気持ちを持っているようだ。姉として、そういう気持ちが残っているのは嬉しいものである。


「いいわよ、イルディン。遠慮しないで、私の膝に体を預けなさい」

「い、いや、忘れてと……」

「さあ」

「……うん」


 誤魔化そうとしていたイルディンを、私は無理やり押し切った。

 すると、諦めたように弟が私の膝に頭を乗せてくる。その様子だけ見ていると、ガルビム様を睨みつけていた人物と同じとは思えない。

 こうして、イルディンは私の膝を枕にして寝転がるのだった。

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