第7話 頼りになる威圧感

 私とイルディンは、ガルビム様と対峙していた。

 ガルビム様は、婚約破棄すれば、ラガンデ家を潰すと言ってきた。それが不可能であることを、まったく理解していないのだ。

 この愚か者に、なんと声をかけるべきか。私はそれを悩んでいた。説明しても理解できる脳がないようなので、そんなことはしなくていいだろう。


「ガルビム様……」

「なっ……」


 それなら、何を言おうか。そのように悩んでいると、イルディンが声をあげた。

 その声は、今まで聞いたイルディンの声の中で、最も怖いといっていい。どうやら、かなり怒っているようだ。

 何故怒っているかは明白である。この愚か者の態度が、気に入らないものだったのだろう。

 だが、それでも、ここまで露骨に語気を強めるのは意外である。基本的に、イルディンは冷静な子だ。怒っていても、態度にここまで現れたのは初めてである。


「これ以上、御託を並べるつもりなら、一言言わせてもらいます。あなたのような男は、姉さんに相応しくない」

「な、何を……」

「あなたがラガンデ家と戦いたいというなら、次期当主として相手になると宣言しておきましょう。もちろん、こちらも全力で戦いますので、覚悟しておいてください」


 イルディンの冷たい声が、辺りに響いた。

 その恐ろしい声に、ガルビム様は怯えている。先程までの威勢はどこにいったのか、とても静かになっている。

 味方であるはずの私も、思わず冷や汗をかいていた。それ程までに、イルディンは怖かったのである。

 ただ、味方である私にとって、その威厳は頼もしいものだ。事実、うるさかったガルビム様が黙ったので、効果はかなりあったということである。


「ぼ、僕は……公爵家の人間だぞ? その無礼な態度は……」

「……」

「う、うぐっ……」


 ガルビム様がやっと出した言葉に、イルディンは視線だけで返した。

 その威圧感だけで、ガルビム様は怯んでいる。怯み過ぎて、言葉が出なくなった程だ。

 これ以上、この会話を続けても無駄だろう。恐らく、目の前の愚か者がもう何も喋れないからだ。

 本当に、イルディンは成長した。公爵家の人間を、ここまで追い詰められるとは驚きだ。知らない内に、次期当主として強くなっていたようである。


「ガルビム様、あなたとの婚約は破棄させてもらいます。これはもう決定事項です」

「うぐっ……」

「それでは、これで失礼します」


 私とイルディンは、ゆっくりと立ち上がった。

 それを、ガルビム様は止めようともしない。いや、止められないと言った方が正しいのかもしれない。

 こうして、私達はガルビム様の元から去るのだった。

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