第6話 言い訳と戯言

 私とイルディンは、ガルビム様の元に来ていた。

 ガルビム様は、今までとあまり態度が変わっていない。反省しているようにはまったく見えないのだが、一体何を言うつもりなのだろうか。


「……アルメネア、僕がしたことは確かに悪いことだった。だが、別にそこまで腹を立てることではないだろう」

「は?」

「婚約者とはいえ、君と僕との間には何もなかった。そういう心の隙間を癒すために、他の女性と付き合ってしまったのだ。つまり、仕方ないことだったのさ」


 ガルビム様の言葉に、私は驚愕した。

 どうやら、この男は自分に非があるなどとまったく思っていないようだ。

 いくらなんでも、このような言い草をするとは思っていなかった。ガルビム様という男は、思っていた以上に最低の男だったようである。

 何より不快に思うのは、言葉の中に私も悪いという態度が現れていることだ。かってに浮気しておいて、そのような態度ができるのは最早逆に才能なのかもしれない。


「もう一度、やり直すというのはどうだろうか? 僕も、今度は浮気なんてしない。そう約束しよう」

「……私がそのような言葉に納得するとでも思っているのですか?」


 私は、語気を強めてそう言い切った。

 すると、ガルビム様の表情が少し変わる。

 よくわからないが、嫌らしく笑っているのだ。その笑みの意味が、まったくわからない。


「何がおかしいのですか?」

「僕は公爵家の人間だ。君達よりも地位は上だということを理解した方がいい」

「それがなんだというのですか?」

「この婚約を破棄するなら、公爵家の権力を使って、お前達の家を潰してやる。お前達が黙っていれば、これまで通りの関係を続けてやるぞ?」


 ガルビム様の言葉に、私は呆れてしまった。

 まさか、本気でそのようなことができると思っているのだろうか。

 確かに、公爵家の権力を使えば、悪いことではできる。ただ、ラガンデ家を潰すことなどできない。こちらにも力があるからだ。

 ガルビム様に行使できるのは、エーデイン家のほんの一部でしかない。他の者が私刑に協力する可能性は、ほぼないからだ。貴族が権力によって、他の貴族を潰すということは、他の貴族から反感を買う行為である。いくら、公爵家でもわざわざ立場が悪くなるようなことはしないだろう。

 一方、ラガンデ家は全権力を行使できる。どちらが勝つかは明白だ。


「どうした? 何か言ったらどうだ?」


 それを理解せず、得意気にしている目の前の男は、本当に愚かなのだろう。

 どうして、このような男に騙される者がいるのか、不思議なくらいである。

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