第31話


 リーナリアがヤンデレ化した翌日から『なぜスタンピードが2回も起こったのか会議』が開催された。


 出席者はスノーエンドの町長と書記官、護衛が2人、それに我が家の人々である。


 「え〜っと…… リーナリア様、あまり睨まないで下さいませんかね?」

 冒頭から自分の乳首をソッと手で押さえ町長が震える。

 

 「ヒロを…… あんな場所に連れて行った恨みを…… ……… 」

 「ひっ!ひ…… ヒロ様!」


 俺は助けを求める町長に対し、目を瞑(つぶ)り首をゆっくり横に振った。俺は降り掛(か)かる火の粉を振り払うのではなくステータスを上げて全力で避けるタイプなのだ。


 しかし、まぁ、町長の怯えも仕方ない、俺でもそうなる。


 俺は後で知ったんだけどもリーナリアは、昨日の薪小屋に来る前に色々と無双した。テンペスト!!情熱の嵐!!

 

 まず、俺を探して町長の執務室に直行…… 物理で。

 扉・壁・椅子・執務室の机を縦拳で粉砕、護衛の兵士を押し除け(吹っ飛ばし)町長のヒゲを毟(むし)り、町長のシャツを破き片乳首が露出し殺されそうになったところで、リーナリアに追いついたロックマンさんバカ親父に止められた。


 「む、レッグダイブから押し倒しテイクダウン、そこから流れるように魔力の乗った拳を倒れる町長に振るおうとしていた所で、あった。私が拳を止めたのだが…… うむ、私の掌の骨が折れたのである。」───後のロックマンの証言

 

 リーナリア…… 世界をとれる…… とかロックマンさんバカ親父言ってたけど真顔だった。

 俺、女の子ナンパとかしたらヤバない?


 その後は、女の子とイチャイチャしてた場所の鉄の扉を破壊。中にいた女の子を睨むと俺を探して飛び出して…… という時系列らしい。


 もちろん、諸々もろもろの賠償金と破壊した物品の費用は、相手がニヤニヤとするぐらいまで余分に払っておいた。

 リーナリアが犯罪者にならないぐらいには!たくさん払ったよ!町長はこれだけで年間の事業費と同じ…… と笑っていたけど…… よかったよね?


 しかし…… リーナリアが脅しつけた女の子達にも直接で払いたい!ぜひ!もう一度!町中で朝に数人と出会えたけどリーナリアが常に隣にいるから逃げられるんだよ!リーナリア何したんだ!?


 じっ……


 リーナリアこっち見とるな…… 感じるよ…… 真横におるんだからそんなに見ないで…… 近い……

 

 チュッ ♡

 ほっぺにキスされたし…… はぁ…… 基本、いい子なんだよな…… あれ?俺ってヤンデレに毒され出してる?


 「ほほぅ…… ホントにやっと結ばれたか…… 良かったのう」

 ローワン爺ちゃん魔術爺が笑顔でほぅっとしてるけど…… え?俺は結婚する感じなの?


 「ローワン爺ちゃん魔術爺結ばれてないから!リーナリアは妹だから!!さてスタンピードの連続はおかしいです。原因が何かわかりませんか?」

 隣のリーナリアの圧力を振り切るように早口で会議を進める。


 「む、確かに…… スタンピードの連続は俗伝(ぞくでん)・稗史(はいし)・歴史書簡でも私は見た事も聞いた事も無い、のであるが」

 ロックマンさんバカ親父ナイス!

 このまま、話し合いの流れに動くといいな!


 それから、うんだらかんだら、云々うんぬんかんぬんと会議が進む。もしも、という話は結局の所は余裕ある精神状態と想像力(イマジネーション)による。リーナリアにビビる町側の人々はこの会議に役に立たなくなっていた。


 俺とリーナリアの話に戻そうとする爺ちゃん達と、町の話に戻す俺の談論風発(だんろんふうはつ)に町長タジタジ…… サーセン内輪話が半分でした。


 昼から始まった会議なんだけど、書記官の1人が家族の夕飯の支度をと退室する時間まで経った頃に話が動いた。


 「…… 所論(しょろん)はスタンピードではなくヒロとリーナちゃんの話なんじゃがまあええわ…… 今まで話しながら考えたんじゃが例えば、もしかしてスタンピードはまだ終わってない…… とか考えられぬか?」

 プロロップ爺ちゃんマテリアル爺の提言(ていげん)に皆がハッとする


 そうかスタンピードが2回起こったんじゃなく、長い行列のなかの2区間でしかないなら…… もしそうだとしたら、まだ後からスタンピードの続きが来る可能性もある事になる。


 「…… それが正しいなら最悪ですね」

 町長が起動する。機動戦士町長。


 「うむ、町長の感じる通り最悪じゃな。プロロップマテリアル爺の言う事は蓋然性(がいぜんせい)の乏(とぼ)しい推測(すいそく)じゃが…… ないとは言いきれんしな」

 ローワン爺ちゃん魔術爺の言葉にシンとする。


 「ヒロ、どうにかならない?」

 「リーナリアはソレ定番にしたいの?…… うーん、1度目がスケルトンみたいなベイコク、2度目がバンシーとアンクー…… アンデッド・悪霊つながりだから、次があるならソレもアンデッドだよなぁ多分…… 」


 んー…… と考えるフリをしてストレージに何か無いか調べる。

 あれでもない、これでもない…… と腕組みしながら脳内に表示されるストレージ一覧をソートや検索をして考える。

 分からん…… 惑星2つ分になったせいで余計に検索の量が増えて調べにくい。一度じっくりとソートし直さないといけないな。



 「アンブロジウスは何か知らぬか?アンデッドなど教会の領分じゃろうに?」

 「プロロップマテリアル爺よ、そう言うてものぅ…… ワシら教会の者は現地で人海戦術(じんかいせんじゅつ)が指針(モットー)じゃ。こういう少人数での作戦会議はした事がないからのぅ…… しかしヒロがおるか…… ふむ」

 「勿体(もったい)ぶるな宗教かぶれ」

 「うっさいわい宝石耽溺者たんできしゃ


 プロロップ爺ちゃんマテリアル爺との漫才が終わるとアンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんは一呼吸してから記憶を探るように話す。


 「ヒロ、さすがにお主でも持ってはおらんじゃろうが…… [至聖者の遺骨]は…… 無いじゃろうな!わははは!ワシは何を期待しとるんじゃ!」

 「あー、えっと…… はい。これですね。バラバラになっていますが指先の骨です」

 ストレージにあった豪華で洗練された箱に入る[至聖者の遺骨]を取り出すとアンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんがジッ動かなくなる。

 「…… ヒロこれはまずい」


 笑っていた爺ちゃんが真顔になった、この骨はストレージから出した途端に光り輝き出したんだけど…… え?なんぞやこれ?


 「おお…… これは…… 伝説の…… 」

 アンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんたら骨を見て泣き出しちゃったよ。


 ────どうにかこうにかアンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんを泣き止ませて話を聞かないといけない。なぜならこの遺骨は異世界(ココ)にあってはいけない物だからだ。


 俺はアンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんが泣いたのを不審に思って、まずは[至聖者の遺骨]を調べる事にした……


 えっとΊησοῦς Χριστόςって[鑑定]に出てるんだけど読めない。何語だ?とじっと鑑定すると、言語が翻訳するように見え出した……

 「えっと…… イ…… エス…… ごわぁぁぁぁ!」

 

 コレは地球の神様の超第一級の聖遺物でした。



 泣き止むアンブロジウス信仰爺ちゃん爺ちゃんの話はこうだった。


 1000年以上前に中央教会の女神像の前にパピルスと一緒に光から現れた。


 その当時、人は魔王と呼ばれる悪魔に蹂躙されていた。

 殺されていく人々の願いを受けて女神様がお与え下さったと当時の記録にはあり、与えられた[至聖者の遺骨]を翳(かざ)すだけで全ての悪魔や悪霊は灰燼(かいじん)と化したそうだ。


 そらそうだよ!だってこの遺骨は神様の肉体の一部だもん!

 悪霊とかには最強のものだよね!


 アカンやつや!コレ、俺なんかが持ったらアカンやつや!さまざまな映画や創作物があるこの遺骨が、こんな異世界に来てるなんて…… !女神様!何してんの!?


 驚きと驚愕でガタガタガタとする俺をリーナリアが覗き込む。

 

 「ヒロ、大丈夫?」

 「大丈夫じゃありません」

 「んー…… でも、ヒロのストレージにまだあるんでしょ?」

  

 はい、あるんです全身の聖遺物があるんです。しかも2体分!しっかりと骨ごとに綺麗な箱に収まっております……


 どーしよ!コレ、どうしよう!?女神様!なにしてんの!?



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


────その頃、神界では……


 部屋ではない、野外のような、そうではないような広大な鈍い光の場所でダラダラと寝そべりながら暇つぶしに女神がヒロキを見ていた。



 「女神様、はしたないですよ?寝ながらお菓子を食べてはいけません」

 「ん?もー…… ワールったらうるさいわね」


 しかし注意されると、ちゃんと寝るのを止める所で神界に戻り若さを取り戻した旅人であり古代エンシェントエルフのワールと女神の関係が分かる。


 「…… ヒロキを見てるんですか?」

 「ええ、暇だしね」


 女神の前には重力を無視するように湖が浮かび、そこにヒロキの映像が映っていた。


 湖の広さは一周が8キロメートルの大きさで、必要な情報や映像をマルチスクリーンのように並べて映す事ができる。今はヒロキの会議をしている映像を特大サイズに大きくして見ていた。


 視力どうなってんの?とは思ったらダメ。女神様、人間、チガウ。


 「しかし、惑星を収納するとは驚きましたね」

 「んー、そうね。まさか銀河系の神からもチートをもらっていたとは思わなかったわ」


 女神はヒロキを怒っていない。

 女神を殺すとかなら怒るが、今ヒロキがしている事は神の目線からすると些細な事なのだ。


 「私(わたくし)の日記だけは返して欲しいですが…… 」

 「あー、ねー?人に日記見られてねー」

 女神のどーでもいいよという態度にワールはため息をつく。正直なところ自分の日記を読まれるのは恥ずかしいのだ。


 そのダラダラな時が止まる。女神が驚き立ち上がったからだ。

 「あ!あの骨!銀河系の神に返すのを忘れていた!」


 以前…… それでも千年も前に、銀河系の神とお茶をしている時に女神は魔王という存在に対して愚痴を言った。魔王は見た目が可愛くなかったからだ。


 銀河系の神は「ならば」と、もう魂は神界に来ていた聖者の遺骨を女神に貸与したのだ。

 銀河系の神と異世界の女神の力関係は遥かに差がある。もちろん異世界の女神が下だ。


 自分が忘れやすい性格と理解している女神は借りたら返すのが苦手で、何かを上級神から借りるのが好きではなかった。…… が力関係上、銀河系の神からの善意の行為を断る事は出来なかったのだ。



 地球の神の骨かー。と思って異世界の教会に渡すと、その存在を2日後には忘れていた。当時は仕事が忙しかった…… 時間軸も関係ない女神はチータラをどうにか地球から輸入したかったのだ。



 「どどど…… どうしよう!ワール」

 「…… まぁ、あまり地上に干渉はしないでおきましょう。ヒロキが亡くなった後に聖遺物を回収して銀河系の神様に返却…… という形で良いのでは?人族のヒロキの寿命なんて銀河系の神様からしたら刹那、瞬きする間もないでしょう」


 そ…… そうだよね…… と女神はホッとしてまたヒロキを鑑賞する。


 もちろん翌日には聖遺物のことなんて全く忘れているのだった。


 そして、ヒロキがこれから知る事になるが異世界の女神はこの通り遊惰(ゆうだ)で怠惰(たいだ)な性格。

 惑星ルーンドを作る時も面倒くさがっていたが、自分が作ったモノが意に反する進化をする事にも嫌悪感を持つ地球の神と似たような我儘(わがまま)さも持っていた。


 魔王や戦争や戦争に使える科学などだ。


 戦争するような文明を破壊しては作り直すを繰り返すけど「なんかめんどくさい」で地球からチョイチョイと文明や遺物やらをつまんでいた。文明を壊し作り直すには、何かのバックストーリーが必要だからだ。それがないと人は絶望し滅んでしまう。



 地球上で伝説や歴史上とされる、どこにあるか分からない、どこに行ったか分からない物の数パーセントは異世界に女神がちょろまかして持ち出していたのだ。


 しかし、今回これが仇となる。


 ヒロキがいるからだ。彼は異世界で生きているが魂は銀河系と一部紐付いている。地球での記憶や生きた時間などだ。


 それを辿って銀河系の神や、地球の神が異世界の観察をし始めているのだ…… 気に入らないからと太陽系生物の魂を半分持つヒロキや、新たなヒロキが持ち込んだ文明を破壊できない事を女神はまだ知らない。



 ドンマイ!女神様!


 

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