第30話
町の裏路地は雪が降る夜なのでぼぅっと暗く、そして雪の白が目に残った。
暗いのに雪は白く光って見えるんだな……
スノーエンドの町は日本の『町』ように人口が多い訳ではないが、魔物がいる世界で人を守る外壁の中にある。
その土地を分け合いながら人が生活するから、人口密度が高くて旧区画なんかは迷路のように入り組んでいる。
「はっはっはっ…… 」
息が上がる。肺が空気を欲しがり悲鳴をあげる。
屋根と地面の雪が走る速度を遅くして足に疲労をためて、体全体を重くスタミナを減らせていく。
見つからないようにシュシュっと指を擦(こす)り[隠密]を起動して壁に寄りかかる。
ギシリ…… もたれ掛かった木の壁は脆く音が鳴り、屋根の雪が肩に落ちる。
音が鳴ったので、焦りまた走り出す。
肺が暴れるように痛い。空気を吸い込むのが辛い。
…… ここで休もう。
住人のものだろう子供の身長の俺が立って入れる程度の高さがある、屋根のある薪小屋(まきごや)の引き戸を開き中にあがり込む。
薪を乾燥させる為に床下は少し高くなっているから外気温より少し暖かい…… 気がする。
「はぁ、はぁ、隠れていよう」
音がしないように慎重に扉を閉めて息を整える。
逃げてきたから薄着で、手袋もしていない。
ガチガチと鳴る歯を何とか止めようとするけど寒すぎてダメだ。歯を打つ音に気が付かれたら…… そう思うと血の気が引く。
急ぎストレージから男児用の手袋や上着や革のアウターを取り出して着込み、それでも寒いので布団を出してくるまる。
少し、暖かくなってきた……
薪小屋の端に移動して静かに…… ただ静かにする。
なぜこんな目に遭っているか…… 何を間違えていた?──────────────────…… 思い出すのはアンクーとバンシーを倒した後のこと。
町に入り、再びのスタンピードを未然(みぜん)に止めた事を門兵に伝えると俺たちはまた、スノーエンドの町の人々から感謝された。
リーナリアと
俺は依頼の達成を知らせに町長の家へ。これが、不幸のはじまり……
「おお!ヒロ様!どうでしたか?」
「もちろん、全く問題なくスタンピードを止めて来ましたよ!」
粗方の討伐状況を話すと、町長は執務室にいた執事に合図をおくり用意していたんだろう書類を持って冒険者ギルドに向かわせた。
今、スノーエンドにいる冒険者は戦いはムリだが調査するぐらいは出来る若い子がゴロゴロといるらしい。
本当にスタンピードを止めたか確認に向かわせたみたいだね。
「いやー、ありがとうございます!スノーエンド町長として感謝をします…… あと金銭はどうしましょう?依頼という形で書類を用意していましたが…… 」
冒険者としての依頼じゃなく、旅人としての依頼だったから報酬部分は白紙だった。一応は一定の限度額を提示されていたけどね。
無記名の領収書だよ、漫画みたいだねやった!
「あー、まぁ夕ご飯代ぐらいでいいですよ?」
「…… ありがとうございます。正直なところ雪が降る時期は財政的にキツいので助かります」
そうなのだ、無記名の領収書は感動するけども、リーナリアを助ける為に再びルーンド(惑星)を収納してしまった。
ストレージに惑星が2つあるという事はお金も、今まで使ってきた分もあるけど、だいたい2倍あるという事だ。
「世界中の金をくれ!」と神様に願う事ができて、その願いが叶った人間がいたとしても俺の方が金持ちなのだ。
もうね嫌がらせしたりする以外で、お金を働いてもらうとか必要がないんだよね…… 。
スクロールも宝石も武器も何もかも使いきれないぐらいあるから…… 物欲はあんまり無いんだよね。
あ、食べて消費したものは欲しいかもしれない。
「さて、ではヒロさん、行きましょうか?」
「え?どこにですか?」
俺の質問に町長はポカンとしてから笑いながら言う。
「いや、若い女の子とのマッチング会場にですよ!」
…… ひゃっほーーーう!
こうして、俺は町長の先導で会場に向かう。
この町は南の帝国に比較的に近い位置にあるので貴賓が利用できるお遊びの施設がある。
路地を歩き、階段を降りて…… 扉を開けたらパラダイスでした。
「きゃーーっ!かわいい!」
「ヒロさん!私と遊びましょ!」
キャイキャイと笑う20人の女の子達に囲まれる。
俺、まだ身長が小さいからさ。ちょうど目線が女の子の胸の谷間とかにくるんだよ。男ってバカだろ?
え?俺だけ?
もうね、楽しみしかない空間ですよ。
「町長!」
「はい?」
「ナイスです!」
背中にぽよんぽよんな物を感じながら町長に礼をする。
「よかった!ではヒロさん、私はここで…… あと入り口と出口は別になっていますからお帰りには気をつけて」
「うっす!」
あれか?帝国の貴族がお忍びで来るから入り口と出口が別なのか?
あと町長は仕事以外では「さん」付けで呼ぶんだな。なかなか割り切りがよく、こういう場合は頼もしいうひひ。
俺は…… 楽しんだよ。
施設には超ロングソファーがあって、飲み物完備、食事完備で食べ放題なのだ。
ストレージからぽいぽいと貴金属やお金を女の子に渡しては胸やおしりやスリスリしてくる女の子の色香に大興奮!
でも、上手くいかないのが俺の人生。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
和太鼓かな?
というぐらいの物を連打する音が聞こえる。
「きゃっ!」
「なに?」
女の子は怖がりだして、1人の子が入り口を指差して震える。
「ヒロ、ヒロ、そこにいるんでしょ?」
リーナリアの声と和太鼓のような連打…… 鉄の扉がリーナリアの攻撃で歪んでいく……
俺は…… 出口に向かい走り出し冒頭のように雪深くなる路地裏に飛び出したのだ。
薪小屋は…… なんとか布団のおかげで凍死しなくて済みそうだし、ここで朝まで待とう…… なんならしばらく行方をくらまそう…… まるで石のようにジッとして朝を待つ。
…… ザ…… ザッザッザッザ……
しばらくして雪の上を走る足音が聞こえてくる。なんで結構な深さの雪の中なのにこんなに軽い足音なの?犬かな?犬であってくれ!!
ガタン…… ズ…… ズズズズ……
そして、薪小屋の…… 扉が開き……
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「ヒロ〜いるの〜?」
リーナリアが…… 来た……
「ひぃぃぃぃ!なんで…… ここに居(い)るのが分かっ…… ‼︎」
薪小屋の外に筋肉の腕が一瞬見えた…… !
裏切りやがったか!?
貴族の復讐の時に覚えたスキルを使ったなぁ!
[遠隔視認]
遠く離れた相手を感知して見る事が出来る。
話した相手にしか使用出来ない。
絶対にアレだ遠隔視認だ!
ここまでリーナリアを導きやがった!
「ね〜え、ヒロ、隠密を切ろうね?」
「はい!」
すすすっとリーナリアが俺の隣に座る。
「ふ〜…… 何で、他の女の子にフラフラしちゃうかなぁ?」
「いや、まだ、リーナリアと僕は…… その、付き合ってもないわけでして…… 」
ガンガン!
「ひっ!」
何でこの子、薪小屋の薪を叩くの!?
「あれか〜、さっきの女の子は自分の事をわたしって言ってたし、わたしも私って自分を呼べばい〜い?そっちが好み?どんな事も合わせるよぉ〜?」
「それは…… はい、はい、」
自分をアタイとか言うのは、おじゃる丸のアカネかうる星やつらの弁天様しか知らないですし……
「私ねぇ、ヒロの事が死ぬほど好きなの。なんならヒロに代わって死んでも悔いがないぐらいに」
「はい、それは…… はい」
知ってます。実際に俺の身代わりになりましたから……
「
「ヒロに浮気されたらね、ヒロぉぉ?私、どうなるんだろ?」
「はぁ、分からないですね付き合ってないので」
チラッとリーナリアを見る…… ひゃっ!めっちゃ瞬きせずに見られてる!
急いで目を逸(そ)らす…… 止まれ…… 止まれよ!俺の腕の震え!
「うふふ…… 私、どうなっちゃうんだろうねぇ?」
「壮健(そうけん)に…… 暮らせるんじゃないでしょうか?」
「…… ふぅ〜ん?私ね他の事は結構、諦めがつくよ。お父ちゃんとお母ちゃんの死も貴族の館で鎖に繋がれて泣いて泣いて…… 諦める事ができた」
おおぅ…… そうだったのか…… リーナリアの両親は殺されたんだもんな。
ゆっくり、リーナリアが近づく……
「でもねぇ…… うふふ…… ヒロは諦められないかなぁ?お母ちゃんも、お父ちゃんを諦めずに結婚したって話をしたかな?」
怖い…… 怖い…… ヤンデレさん怖い!
「私は、ヒロをあきらめないわよ?あなたを幸せにしてみせるのは私なんだからね?分かった?ヒロ?」
「い…… いゃぁ?」
なんとか…… 何とか否定できた!
…… え?何?リーナリアなにその顔!?
「────────────────────────────────────────…… ふふふ、今はまだ、いいわ。ヒロが時間をくれたんだもん。ゆっくりいこうね?ヒロ?」
何この言葉の間(ま)!一瞬、この場で殺されるかと思ったよ!?
「さぁ、帰ろ?ホットミルク入れてあげる」
「おおぅ、お…… おう」
リーナリアと一緒に立ち上がる。
「あ、そうだ!」
「え?」
くるりとリーナリアが振り向く。
暗がりだから顔は見えないが、近づけないナニカがある!
「次、エロエロな事を他の女の子にしたら…… うふふ、知らないから」
うぉ─────────こえぇぇぇ!
なんとかせねば!
いや、なんとか出来るのか!?
俺は…… 俺は恐ろしい相手にチートを与えてしまったのかもしれない……
─────30話になりました────────────
─────────────────────────
リーナリアの水着画像でした↓
カクヨムでは画像挿入出来ないみたいです。
<i540190|25380>
リーナリア「30話です…… あの、もし、もしもでいいので…… ☆の評価をお願いします…… (なんで水着なの⁉︎)」
ヒロキ「尻の肉がムチムチやな」
リーナリア「!!っ!…… 筋肉だもん…… 物理だもん…… 」
※20歳をこえています。
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