第29話
「む、ヒロキ、ホントに何もしないで良いのであるか?」
「ああ、まかしておいてよ」
俺と
爺ちゃん達は極寒の中で歩かせるのは酷でしょ?だから4人は町でホットワインを飲んで待っていてくれているよ!
しかし結構な雪の中を感覚的にかなり歩いて疲れた。雪は見るだけで歩くもんじゃねぇ!
地球時代もオッサンになるまでスノースポーツに興味が無かったから余計にそう感じるのかもしれない。
ちなみに、魔導スノーバイクみたいなものは無かった…… 残念!あれ?除雪車ならあるんじゃないか?…… あったわ魔導除雪車…… まあ、いまさらだなぁ……
「……
「む、むぅ…… まぁ帰りは楽で…… あるな」
「ヒロ…… たまにそうなるよね?」
何だ?…… 何が始まるんだ?
「ヒロ…… [鑑定]で見たけど真ん中にいる6人?がアンクーって魔物で、その周りにいるのはバンシーって言うらしいわ」
ハッとして、
スタンピードに集まる魔物は約200体。
俺たちは雪原から、魔物を見やすい
魔物と直線距離で1キロメートル以上は離れているけど、
[魔力遠視] 魔力を目に込めると遠くの物が見える。
※魔力を込めすぎて太陽を見ると
目が潰れるので注意が必要。
ホラ、チートでしょ?
爺ちゃん達も含めて全員が必要なスキルだから[極]にまで熟練度を上げている。
『目』系のものは絶対に大事だから、覚えられるだけ覚えている。
これで今世はメガネを必要としない人生だぜ!やった!
話を戻すけど、バンシーは幽霊っぽいなボサボサの黒い髪の毛、何年も泣き続けたように疲れ赤くなった目…… 血か何かで汚れた緑の服にグレー色のマント……
普通に怖い。
[隠密]を覚えた時を思い出す。
俺、幽霊が怖いのです…… すみません、もう隠さないです。
幽霊がメッチャ怖いんです。
「うぅ…… 」
「なんだろう…… あのバンシーって魔物の声…… こんなに離れているのに聴こえてくる」
気味の悪いバンシーの泣き声は、狼と癇癪を起こした赤ちゃんと殺されそうな女性の絶叫を合わせたような大声で聴くだけで身を縮めてしまいそうになる。
やっぱり、ここは俺がストレージの物量で遠隔で潰してしまうべきだろう…… 近づきたくないしね!
「む、それと対比するようにアンクーという魔物は…… 大人しいのであるな…… 立ち位置的にバンシーに守られているような気がするである。おそらく、この、スタンピードのリーダーであろう」
アンクーは、背が2メートルを超える男の姿をしている。
俯いたその顔は黒い靄(もや)が掛(か)かりみる事が出来ない…… いや認識を阻害されているんだろうか?
「なんか…… 存在感がかなり薄い魔物だねアンクーって」
「ああ、バンシーが怖いだけに余計(よけい)な」
「あらあら?ヒロって幽霊が怖いの?かわいい ♡アタイは聖魔法使えるから護るわよ?」
「…… うっせいわ」
にししと笑う
俺は安牌(あんぱい)星人なのだよ!聖魔法も覚えておるわ!ふふふん!
「とりあえず、終わらせるわな」
俺の言葉に2人がコクリと頷(うなず)きスタンピードの魔物群に目を戻す。
やっぱり俺の
ストレージから大きくて、今回は悪霊がいるから聖なる物を探す…… これでいいかな?
「2人とも、大きい物を出すから低く構(かま)えて」
2人がそれぞれ違う枯れ木の後ろに隠れて身を低くするのを確認すると俺はスタンピードで集まる魔物達の上空に手を掲(かか)げた。
───────────────アタイは木に隠れながらヒロが何をするかワクワクして見ていた。
「うっわ…… 」
思わず声が漏れちゃった!
ヒロは手を差し伸べた上空からストレージで出したのかな?煌(きら)びやかな巨大なお城を落としたわ!ナニ?ホントにヒロってナニ!?
キラキラ綺麗なお城…… なんかお城の全体が何か光っているわね……
あ、アンクーが1人こっちに気づいた…… けどお城に潰されたわ……
「む、むむ…… あの城は私も見た事がある。王国騎士団として訪ねた正教国の大聖堂である…… !なぜヒロキはアレを持っているのだ、?」
そうか…… あれが大聖堂かぁ……
ズズゥゥゥン…… 大聖堂の墜落の音のあとに凄い衝撃と雪の嵐が吹き荒れる。
あーあ、ちゃんと大聖堂を見たかったなぁ…… なんならヒロと結婚式とか…… えへへ……
雪煙がもうもうと魔物がいた場所にあがる。
「むう、大聖堂は聖なる加護がかかっておる…… 確かに悪霊には効くであろうが…… ヒロキは滅茶苦茶で、あるな。」
キラキラ光っていたのは加護だったみたい。
「どうだろう?これで大丈夫かな?」
ヒロが不安そうに聞いてくるけど、アタイと
なんか、なんかそんな事聞かれても!って叫びたいわよ!
「じゃ!帰ろう!」
ヒロの言葉に笑顔になるかわいい。えぇい、抱きついちゃえ!
タタタっとヒロに走る。
最近は、ヒロはアタイを避けない。体を預けてもギュッとしやすくしてくれるようになった。嬉しい!
手を広げてヒロに抱きつこうとして
ヒロの後ろに重なるように隠れるアンクーが目に入る。あの時に目が合ったヤツだと気づく。
気配や音が全くしなかった!
ヒロを抱きしめて体を捻る。
ヒロ、苦笑いね…… アンクーに気付いてなかったみたい。
…… !!…… 背中に熱い…… !痛い…… !お腹に錆びた剣がニョキッと出てきた。
抱きしめたままだとヒロに刺さっちゃう……
ヒロから体を離して手で押し倒す。
背中から刺されたみたい…… 痛い。
「ゴブ…… 聖魔ほぅ…… ゲホッ…… 」
レーザーをアンクーに全力で……
溶けて粒子になるアンクー…… よかった。
「リーナリア!」
「ヒロ…… 」
ヒロがギュッと抱きしめてくる。
「だめ…… お腹から剣が出てるから」
「リーナリア!リーナリア!」
ふわっと光がアタイを包む。回復してくれてるのね
「ありがとう…… 」
「バカ!なんで!?」
ヒロ、ヒロ、泣かないで。
「アタイの…… 寿命はね、あと少しだったの…… 隠していてごめんなさい」
ああ、回復じゃ…… 間に合わないみたい…… 死ぬのがゆっくりになった…… のかな?
寿命とか言って分かるわけない…… よね。ごめんねヒロ。
「リーナリア…… 知っていたのか?」
ヒロ、ヒロも知っていたの?
何でも分かるのね…… ヒロは…… 肺が…… 苦しい……
「死ぬのがちょっと早くなっただけだか…… ら…… 」
あなたの為なら何てことないわ……
ダメ、もう肺に血が溜まり出して声がでない。
「ダメだ!ダメだ!リーナリア!リーナリアが長生き出来るアイテムを俺は作っていたんだ!長生きできるから!な!おい!」
なんだ…… ほら、ヒロは優しい。
なんとか、しようとしてくれていたんだ。
頑張ってくれたんだし…… ちゃんと言わないとね
「ゴブ…… あり……
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ああ、ヒロからのキスだ嬉しい……
───────────────────…… リーナリアの息が止まる。
命が終わる。
あの元気な目が俺を見ていない……
「ヒロキ、ダメで、あるか?」
「ダメじゃない!」
考えろ!考えろ!
俺はリーナリアを抱きしめながら考える。
脇腹にリーナリアに刺さる刃が食い込む。
痛い、こんな痛い思いをして俺を守ってくれたんだ!
考えろ!生き返らせるんだ!
死んだ事を無かった事に……
「あ、そうか」
答えは簡単だった。
俺は雪原にグッと手をつく。
雪を押し除けグリグリと地面に手をついて……
「ごめん、
「うむ、なにをするのだ?」
ごめん、ロックマンさん
俺はしっかりとリーナリアを抱きしめながら呟く
「この惑星を…… 収納」
ギュン!と惑星がなくなる。
2度目の感覚!
「ぬおおおおお!!」
ロックマンさんの叫び声が聞こえた。ごめん殺してしまうけど…… ごめん!
大気が吹き荒れ重力が変動して俺は高速で虚空に飛ばされる。リーナリアを離さないように抱きしめる…… 自分が何か…… 大きな魔物にぶつかると……
…… !…… 光が戻ってきた!
俺の前には俺に抱き着こうとするリーナリア!
やった!1度目の惑星を収納した時と同じだ!
時間がちょっとだけ戻っている!
俺は、そのま自分の後ろに向かって全力で聖魔法のレーザーを撃ち込んだ!
「!!えぇ?ヒロ!?あ!アンクー!?こんなところにいたの?」
リーナリアが心配して俺に寄り添う。
そう、俺は異世界の女神様にもらった命を一つ消費して時間をロールバックしたのだ。
「なぁ、リーナリア…… 」
「え?」
俺は、出来るだけ優しくリーナリアを抱きしめる。
「うぇぇ…… ヒロから抱きしめられるって…… えへへ嬉しい」
バカ、こんな事で嬉しがるなよ…… お前は俺に命をかけてくれたんだぞ?知らないだろうけど。
そうだ、今しかタイミングはムリだ。
あと伸ばしにしたら…… 俺が照れてしまう。
「リーナリア、寿命が短いの、知ってたんだな?」
「うぇ?…… ヒロ…… 知って…… たの?」
リーナリアの頭を撫でてからストレージから[延命の指輪]を出して、リーナリアにはめる。
─────3度、指輪が淡く光った。
確か[鑑定]で詳しく調べた時にあったな。光が2度で寿命が2倍、3回だからリーナリアの寿命は3倍になった事になる。
足りなければまた魔力を貯めてやればいいしな。
今は…… というか、しばらくはこれで大丈夫だろう。
ホッとしてリーナリアに目を戻すと困惑した顔をしていた。
「これは?」
「リーナリア、これは[延命の指輪]…… 寿命が延びる指輪…… 。もう、リーナリアはお婆ちゃんになるまで寿命では死なない。短い種族的な寿命は関係なくなったんだよ」
俺の顔と指輪を何度も見て、リーナリアは意味を理解したのか力が抜けて倒れそうになる。
「ありがとう、ヒロ、」
そうだよ!ありがとうは血を吐きながら言うセリフじゃないぞ!リーナリア!嬉し泣きは許す!よしよし!
痛い!痛い!いたたたちたたたた!
ギュッとしないでえぇぇ───────!
雪の中でしばらく俺は痛みに耐えながらリーナリアに抱きしめられていた。
しまらねぇな俺!やっほい!!…… とりあえず、スタンピードをなんとかしたし帰ろうって事で、壊れているけど大聖堂をストレージに仕舞(しま)い込(こ)み、ついでに魔導除雪車を取り出す。
古代文明はすごいな。前も思ったけども地球の技術に寄せるどころか一部は先を行ってるもんな。
旅人ワールの旅の日記には、この辺の事も書いてある。
【行き過ぎた文明が現れると、それを粛正するかのように大災害が起こり超文明を地の中、または海の中に沈めてしまう。これは女神様が遥か彼方の惑星の[化学と科学]で強化された戦争を見て嫌悪していた為に設定した事なのかもしれない。】
なるほど、地球かな?
核兵器とか作るとあとは、いつ全世界が火の海になるか分からないもんね。女神様意外と物騒ですよね?
ギョルルル……
魔導除雪車は雪を掻き分けて進んでいく。
積雪量とか勾配値とかお構いなし。
確かに魔法がある世界で[化学と科学]が発展したら何度も人類や生物が全滅する戦争になっていたかも……
除雪車って乗った事ある?
色んな機器がギッシリで狭いのよねー。
大男の
「はぁ…… 綺麗…… 」
その上、リーナリアが俺を片手でガッチリホールドして自分で左手の薬指にはめ直した[延命の指輪]を見てうっとりしている。
これはアレだ。尻に敷かれる感じか?
いや、リーナリアは妹だ!一時の気の迷いでキスしてしまったけど
ノーカン!
「うむ、ヒロキ、結婚はするのであるか?」
「いや、それは考えていな痛たたたたた!」
リーナリアさん…… 指輪を見ながらギューってしないで下さいませんか?
「何?ヒロ?」
「…… いえ、」
強い。
その一言に尽きる…… 。
「ヒロ?」
「リーナリア、もう長生きできるんだから焦らずいこうよ?」
「そう、長生きできるのね、そうね、そうね!」
これは…… 大丈夫なのだろうか?ポンコツ幼女に拍車がかかってないだろうか?
あれ?
なんか俺、クズっぽくない?
あれ?でも、でもでもだってちゃん。
異世界なんだからハーレムとかアリじゃなかったの?
あれ?
魔導除雪車は雪道を直走(ひたはし)る。
あ、リーナリアが頭を俺の肩に寄せてきた、いい匂いするなー…… エルフの血が入ってるからか花の匂いがする。
うーん、そうなんだよなリーナリアと一緒なら楽しい人生になりそうな気も……
あー、なんだよ!どうすればいいんだよ!?
と…… とりあえず、町長開催エロエロマッチング大会を楽しみにしておこう!
「ヒロ?」
「はいぃぃぃ!?」
…… 楽しみにしておこう……
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