第19話


 俺たちが潜るこの遺跡は、スピルバーグ監督のインディージョーンズに出てきたペトラ遺跡のような石窟墳墓で、太陽が届かず湿度があまりないのか涼しい。


 何千年か前の古代遺跡でエジソンフィラメント発光ダイオードLED照明のような物が点々と天井に設置されていて暗ぁ〜い感じ。

 何千年も点灯しているらしいから、この辺は地球より技術は高いと思う。


 その薄暗い中を探索して回る。


  遺跡探索者ルーインエクスプローラーと学者の爺ちゃん達は言うけど、遺跡内を歩きながら仕事内容を聞くと地球での遺跡荒らしと同じような事をしているみたいだ。


 「シュリーマンみたいだな」

 「…… どなたかのう?その御仁(ごじん)は?」


 俺の呟(つぶや)きを学者の爺ちゃんが拾う。

 さすが探究心の塊の学者さん、興味があれば聞くを惜しまないタイプのようだ。

 ハインリヒ・シュリーマンの古代への情熱という本を昔読んだぐらいなので適当にトロイアという遺跡を発掘した事を話す……

 もちろん虚言癖があったのではないかという後世の考察や、遺跡を荒らしたり古代遺産を持ち出したりと保護の観点からは疑問視されている事を除いてだけど。


 ちなみにシュリーマンみたいだな、という俺の呟きは遺跡荒らしの部分。この異世界の時代や法体系、帝国主義とが合致したんだろう…… 最悪な事にこの遺跡の物は見つけ次第全て持ち帰り皇帝に献上して必要ではないものは他国に輸出したりしているらしい。


 …… 俺はやっとこ・・・・と鶴嘴(ツルハシ)で汚く開けられた通路を眺めながら進む。


 酷い有様だ…… 金箔でも貼られていたんだろう部分はゴッソリと剥ぎ取られ、坑夫が背を預けたのか黒く燻んでいる。

 少し高い壁上面にあるモザイク画で描かれたイコンが割れ落ち古代の聖人画が涙を流しているようにも見えた。


 時代が進み、もっと帝国が裕福に文化的になったらこの学者の爺ちゃん達もシュリーマンの様に後の世で論議にかけられるんだろうと思うと、その小さい曲がった背中に哀憐の情を感じる。


 「ほほう、そのシュリーマン殿とは話をしたいものじゃ」

 「…… いえ、もうお亡くなりになられているので」

 「そうか…… 残念じゃ、さてもう少しで新発見された区画じゃ。ちょい手前に広い部屋があるので休憩しよう」


 学者のリーダーの爺ちゃんの言葉に皆がうなずく。

 しかし…… ゲームのように魔物が出ない。過去の前例で危険性があまりないと判断しているから少人数なんだろうか。


 「ヒロ」

 「ん?ん、」

 リーナリアロリ成人が少し寒いように自分の腕を摩っているからストレージから子供用のふわふわなポンチョを被せ着せてやる。おいロックマンさんバカ親父微笑ましく見るな。


 よい、夫婦とか言うなや…… おい爺ちゃん達、夫婦生活の秘訣とか話し出すなや!


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「大丈夫です」

 「よし、ここで食事にしよう」

 騎士が部屋と、次に続く通路を確認して危険がないと伝えると爺ちゃん達が腰をおろす。

 

 「あ、ちょい待って下さい」

 コロコロとストレージから手織りの大人が20人は座れるだろう大型絨毯を出すとリーナリアロリ成人がゴロンと横になる。


 「石床なので冷えますからここに来て座って下さい。スグに食事を用意しますね」

 「お、おお」

 「?」


 今回の依頼はポーター(料理提供した場合は報酬の加算あり)とあったからな。マズイ携帯食を食べるより世界の・・・ウマイ物を食べたいと引き受けていたのだ。


 ナゼか引き気味のお爺さん学者4人を絨毯に座らせてストレージにある料理のどれを出そうか考える。


 「この絨毯…… 東にある王国の迎賓館にあるものに似ている」

 「うむ、ワシもその時におったが…… 艶や滑らかさも同じじゃ…… 」


 なんかブツブツと言う爺ちゃん4人……

 疲れているのかな?

 「ヒロ、アタイ少し寒いから暖ったかいのが食べたい!」

 「うん?そうか、まあいっか」

 リーナリアロリ成人寒そうだし…… 騎士の2人も装備が鉄製だから冷えたんだろう、少し希望を持った目を向けてくる。


 オッケーみたいだし、ストレージの中にある大鍋にたっぷりな海鮮煮込みスープを取り出す。

 なになに?[鑑定]海鮮料理の名店ロッソニーズの逸品。

          ステータスの回復効果がある。


 ほお、これはいいな!よしよし!じゃあ白パンと一緒にいただこう!


 「みなさん!料理が出来ましたよ!」

 「…… えっと少年、名前は?」

 「はい?あ、言ってませんでしたね!冒険者のヒロと言います」

 「ヒロ君、すごいなキミは。スープいただくよ」

 「?ええ!どうぞ!」


 学者のお爺さんの1人の声でみんながスープに手をつける。

 よし、俺も…… なにこれめっちゃ美味しい!

 魚の臭みは無く、何かの野菜の風味と合わさって濃厚な旨味……

 これ地球でも食べた事ないぐらい美味しいな!

 具の一つ何の貝柱か分からないけど、これも牛肉のステーキのようなエキスが噛むごとに口に溢れてくる。


 すげえ!これは感動だ!海鮮料理のロッソニーズ…… 行ってみたいぜ!


 「…… ヒロキ、」

 「ん?」

 なんだ?ロックマンさんバカ親父が顔を近づけてヒソヒソ声で話しかけてくる。首の筋肉すげぇな。


 「うむ、あの学者が驚いた理由だが、海鮮料理…… とりわけ貝類はこの国では高級品だ…… しかもこのスープ…… これに入っている魚は大陸をいくつか超えた所に生息する固有種である。」

 「お、おう…… 」

 「ん、この国ここの皇帝でも乾物となった物しか食べた事がないであろう…… 分かるか?」


 …… やりすぎちゃった感が…… 今更。


 「ヒロ!アタイこの魚をまた食べたい!新鮮な魚って臭いものだと思っていた!」

 

 え?何?ロックマンさんバカ親父鮮魚を運ぶにしても時間を止める事ができる何か・・があると疑われているかも、だと!?


 4人のお爺さん学者と騎士2人と目が合う。

 …… ニッコリ。

 「ヒロ君…… これ」

 「あ!食後のデザートもありますよ!」


 追求せんでください!アナタ達は皇帝と近い立場でしょ!?俺は権力とかと距離をおきたいの!


 ササッと言葉を遮るようにストレージからゴロゴロとたくさんの果物を取り出す。


 「…… これは!」

 「…… え?」


 驚く1人のお爺さん学者とため息のロックマンさんバカ親父


 「なぜ…… 迷いの大樹林にしかない幻のフロフロの実がこんなにあるのだ?」


 おーわお!アウト!

 固まる帝国サイド、呆れる筋肉、モシャモシャと幻の果物を食べる幼女。


 カオスな遺跡内での食事会はなんとも言えない空気で終了となった。


 

 

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