第11話


 ゴロゴロと音楽を聴いて本を読んで過ごす事、二ヶ月


 今、俺は大森林の中の要塞で暮らしています。

 え?土魔法のチートで建てたのか?


 ちがいますストレージ内の建造物をドシンと出しただけです。


 いやー、ロックマン副長官筋肉騎士の追いかけがかなりトラウマになってしまいまして引きこもっています。


 「おお、この曲はいいな…… 」

 旧共和国にあったという蓄音器からパワフルな女性歌手の歌が流れてくる。


 「ふふふ」

 お気に入りの貴族のテーブルセットに、王族の夕食ビュッフェをストレージから出して…… っと、もちろん時間経過は俺のチートストレージには無いからホカホカで目玉焼きはちゅるちゅる。肉はもむもむと歯応え最高。



 ………… 寂しい。

 圧倒的ひとり!要塞だから音が響くんだよ!

 独りの生活音が響いて響いて…… キンッキンッ…… キンッキンッ…… あ、フォーク落としちゃったえへへ…… 誰か答えて欲しい!なんなら詰(なじ)るのも可ですから!


 はあ、外には魔物がいるしロックマン副長官筋肉騎士が来たらと考えると要塞の他に選択肢はなかった…… 圧倒的な弱気!圧倒的現代人…… っ!!



 「ぐぅぅ…… 外に…… 出ようかな…… 」

 そうだよ俺は元々の所、人好きだから営業の仕事を選んだんだもんな…… まぁ実際の営業仕事と理想の営業の仕事は全く違ったんだけども。人嫌いになるよな営業職は……


 よし…… よし!明日、外に行こう!もう一度ガンバってみよう!

 決意を新たに俺は立ち上がる。


 「〜〜〜!」

 …… んん?


 「〜ょぅ〜!!」

 …… あ…… あぁ……


 「ヒロキ少年〜!!!」

 ゾワりんと鳥肌が立つ。

 寂しいからせめて景色でもと、要塞の櫓(やぐら)の高い所でご飯を食べていたんだけど…… ひいい!

 「ろ…… ロックマン副長官筋肉騎士…… ?」

 なんで!?なんでさ!?

 ガタガタ震えながら隠れて姿を確認する…… え?目が合った?


 「おお!ヒロキ少年!そこにいたか!今行くぞ!」

 「え?今行くって…… うひぃいぃぃ!」


 ど────────ん!

 と地面を蹴り飛び上がって、俺の目の前にズムリと立つ筋肉の使者ダーグラーム!


 「あ…… あ…… ロックマン副長官筋肉騎士

 「ん?いや、ヒロキ少年!今の私は副長官ではないぞ!」

 「うぇ?」

 「騎士団を辞してきた!これからよろしくな!」


 あれ?なんかおかしな事になってきちゃったぞ?


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「なるほど…… 」

 「うむ、」

 ロックマン副長官筋肉騎士…… いやロックマンさん筋肉バカは元々は平民で今は帯剣貴族(ノブレスオブソード)として国に仕えているらしい。


 領地を持たない法服貴族(ほうふくきぞく)みたいに金持ちではないけど、似たようなもんだそうだ。


 「えっと、何で?」

 「ふむ、面白そうだからだな」

 一応、国から働かなくても年金が出るぐらいには成果を出したのだから数年の休みを貰いたい、一時退団の許可を!と官僚に詰めよったそうだ。


 でも面白そうで人生を左右してええんかい?

 え?いいんですかマジですか?



 筋肉が頷くのを見て俺は愕然とする。


 どうして…… どうして可愛い女の子が来てくれないの!?


 でも人と話せて少し嬉しい俺がいる!悔しい!

 「あ、その肉美味しいですよ」

 「うむ、うむ、!」

 お父さんって呼んでいいかな?なんか団欒って感じで嬉しい!悔しい!



 ─────── 翌朝


 要塞をストレージに入れて振り向くとロックマンさん筋肉バカは驚いた後にニヤリと笑う。


 「ホントにヒロキ少年は面白い」

 「さいですか」


 一蓮托生マンと化した俺は昨晩、ロックマンさん筋肉バカにスクロールを押し付けた。

 

 一蓮托生マンとしては同じ秘密を一つでも共有したかったのだ。

 要塞の影形が無くなったのを確認すると2人で頷いて[隠密]を使用して歩き出した。


 そう!御禁制の[隠密]をロックマンさん筋肉バカに覚えさせたのだ!


 「ヒロキ少年」

 「ええ、いますね」


 ロックマンさん筋肉バカがこの要塞の場所を知ったのは俺が馬鹿だからだった。

 あまりの世界の怖さに要塞を出したもんだから、少しずつだけど騒ぎになり何度も冒険者ギルドから斥候が来ていたらしい。


 「マジで討伐される対象だったのか」

 森の中に要塞が一夜の内に建設されている。

 それは人の仕業ではないと辺境の騎士団と冒険者が破壊と斥候による目撃にある子供を討伐する方針で話が進んでいたそうだ。


 ロックマンさん筋肉バカが俺を捕捉出来たのもその・・おかげだと彼は笑った。河川で飛び逃げた時の方角を頼りに聞き込みをして冒険者ギルドで子供の目撃情報があると知った時にピンときたそうだ。くそぅ。


 …… 昨晩の会話を思い出しながら、要塞がいきなり消えた事で騒ぎ出す人々を横に避けながら森を抜ける。


 あれ?[隠密]なら見えない者同士なんだしロックマンさん筋肉バカと逸(はぐ)れるんじゃね?

 俺は考えたね!ロックマンさん筋肉バカを撒(ま)いたり出来るんじゃねえかなぁーって。


 でも思い出して欲しい。

 ロックマンさん筋肉バカは素の状態でも[隠密]を見破る変態である。


 はぁ…… ふぅ…… はぁ……

 しっかり、ピッタリと俺の後ろからついてきています!

 ロックマンさん筋肉バカは背が高いから、吐息と鼻息が俺の頭上から舞い降りる。


「うぅ…… なんでこんな目に…… 」

 俺は半泣きで森から街道に向かって走り出した。


 はぁ…… はぁ…… ヒロキ少年…… 早いな…… はぁ…… はぁ……

 「…… 勘弁してください」

 

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