第3話

 ほうほうふーん。わからん。

 雑貨店を後にした後、町に1つの宿屋の部屋をとった。

 カプセルホテルとビジネスホテルしかここの所は泊まっていなかったからアレだが、それに比べても少し質素な感じを受ける。


 そこで雑貨店で見たスクロールを検索してストレージから出して調べているんだけど…… わからん。


 使い方がホント分からない。


 「うーん参ったなぁ、異世界物でよくナビゲーターが登場する理由が分かるわ」


 あ、雑貨店にあった物とストレージの中にある『前(・)のルーンドの世界にあったソバの街の雑貨店のスクロールは同一のものだった。ほら端っこの汚れ具合とか折れ方とか。

 この世界の物は全て我が手中にあるのだ!!


 「しかしなぁ…… 物があっても使い方が分からんと意味が無いし、バンバン使ったら危ないしなぁ」


 雑貨店には危険物もあった。魔物と戦う世界だから火器の類ももちろんある。そういう物を知らずに使ったりストレージから出したりするとその場で命がマイナス1になってしまう。


 「女神さまー、女神さまー教えてー、はぁ〜い、みたいな呼び出しが出来たら楽だけどなぁ」


 ボスンと不貞腐れてベッドに転がる。埃(ほこり)で夕日がキラキラしてるわ、おいちゃんと掃除しなさいよ!

 「はぁー…… まぁ、働かなくていいからゆっくりするか」


 ゆっくりすると言いながらストレージを寝転がりながら確認していく。持っているものをソート並べ替えしていて分かったんだけど俺の所持金は計算が嫌になる程にある。そりゃあ惑星中のお金を集めただけ持っているからそうなんだけど、こう、モチベーションがなぁ……


 勤労意欲! はい! 勤労意欲がありませーん!


 孤児院をつく…… る、いやしんどい。

 人をやとって、いやしんどい。


 日本で生きるには仕事ありきだったから、行動の指針がまず仕事からか、仕事を絡めてからしか思いつかない…… 川遊び…… 石投げ…… かけっこ…… だめだ子供の頃に楽しかったものまで遡ったけど魔物がいて生きるにカツカツな異世界でやると危ない大人になっちゃうビクンビクン。


 「考えてたら何か腹へったな」


 寝て起きて愚痴を言う金持ちの大人とか日本ならサイコーなのに異世界では持て余すなぁ…… とグッタリしながら宿屋の食堂へ向かった。



 

 「一番、高い飯を頼む。一番いい酒と」

 「おいおい、ダメな大人のマネしちゃいけねぇよ、若造」

 宿屋の食堂のオッサンに笑われたわ辛れぇわ。

 そうなんだよ、女神様に受肉してもらった体は若くてこの世界でもギリ未成年に見られるようだ。女の子とウフフの店にも入れなかった。



 圧倒的! 圧倒的に金の使い道が散財の機会がないのである!


 そう、物は自由に手に入る。金を使うのはサービスだけなのである! なんなら食事も『なになに王族のディナー』がストレージにあるから食い物も買わないですむホカホカで手に入る。


 サービスして欲しい、金もあるし時間もあるんだよフフゥーン……


 ここは俺の奢(おご)りダァぁぁぁ! も、もちろんしてみた。宿屋の食堂でさっき。え? ギャグと思われて笑われたよ?バーカバーカ!


 「ぐぅぅぅオススメ ヲ クダサイ」

 「おうよ」

 まるで苦虫を噛んだように注文をするとオッサンは苦笑して厨房に下がる。


 「まったく、どうにもならんね…… こういう時に旅の紹介サイトとか旅行や国の紹介本なんかが…… あれ…… ば…… 」

 

 あ! そうだよ!

 ストレージ検索でルーンドの説明書みたいな本を探せばいいんじゃん!


 「オッサン! 急用が出来た! 飯代置いとく! 」

 俺は一目散に自分の借りた部屋に戻った。


 HOWTO…… ルーンドの説明書…… と検索していきある一つの本がストレージの中でマッチングできた。


 「旅人ワールの旅の日記…… 」


  旅の字おおいなぁ……


 魔法の本とかで出した途端に燃えるとか可能性があって怖いけども…… 知識がなければ死んでいるのも同じだ。しかもこれは旅行本…… という自己暗示をかけながらドサリと部屋の床に取り落とす。



 これが日記? と思ってパラパラと中を見るとワールという旅人が人生を通して知った事が細かく記されているようだ。

 表紙の右下に通し番号の打刻がある本で世界に15冊しかないみたいだ。ストレージには8冊…… 残りは燃えたかしたんだろう。


 ただ、かなりデカい。縦1メートル×横80センチぐらいで厚さはリンゴ2個じゃあ追いつかない分厚さだ。

 装丁には銀や金、宝石までついている。地球なら何億円するんだこれ?


 「どれどれ、とりあえずはスクロールの事を調べてみようか」

 重くてとても持てないから床に敷いてワールの日記の目次を見ていく、このページか。

 ◇スクロール

 スクロールはうんぬんかんぬん…… 魔法や剣技等を長い時間をかけて習得する事ができるがスクロールを使うとこれらは一瞬で終わり習得した内容が脳に書き込まれる…… ふんふん、えーーーーっと、概論やら考察が多いな…… あった。


 ◇スクロールの起動法

 スクロールに手を当て魔力を流すとスクロールが光り消える。その時点で習得が済んでいる。

 獲得したか確かめるには鑑定の能力(アビリティ)がある者に診てもらうかギルドで確認してもらうとよい。


 また、幼児の場合はまだ魔力が不安定な事がある。

 そういう場合は一滴の血を垂らし「習得」という詠唱をすると覚える事が出来る。


 「鑑定きました! 」

 異世界ものの定番です!ありがとうございます勝てます勝てます人生に!

 さっそく『鑑定のスクロール』をストレージから探す


・鑑定のスクロール 25600個


 おお…… ありがたくねぇ…… 世界中に鑑定のスクロールは二万五千以上の数があるのか…… まあ、まぁいいよ、ほいほい鑑定スクロールでちゃって!


 ポソリとゴワゴワの羊皮紙が俺の手に現れる。

 「これが鑑定のスクロールなのだろうか?…… ストレージ様を信じるしかないけど」



 「魔法の使い方はまだ分からないからとりあえず子供向けのスクロール習得方法でいくか」


 破傷風にならないか心配だけど…… ストレージから針を取り出して親指をプツリ。血が丸く指に溜まったら鑑定のスクロールに手を当てる。

 「上手くいってくれよ…… 習得! 」


 シャッ!

 ホントにそんな刃物が擦れた音がしてスクロールは光り輝きながら刃物のように尖り俺の手を貫く


 「おぇぇぇう? あれ?痛くない…… 」

 血も…… 出てないそれどころか、体全体に喉が渇いた時に冷たいミントの炭酸水を飲んだような清涼感のようなものすら感じる。



 「光が全部、俺の中に入った…… な? これでいいのか? 」

 使用後の鑑定のスクロールのクズはパラパラと空間に溶けて無くなる。


 「…… あ、」

 自分でもヌケた声と思うが思わず声にでる。感覚で分かった俺は鑑定を使えるようになった。


 「…… 鑑定…… ははは、すげぇわこれ」

 試しに部屋のベッドを鑑定すると空間にARで貼り付けたようにベッドの横にベッドの鑑定結果が現れた。


 「なになに何が書いてあるんだ?『ベッド…… この宿屋で10年以上使われている。ベッド上での殺人により一度破損している』 って怖えよ! 」

 明日には部屋を変えてもらおっと…… しかし……


 ストレージを並べ直しソートしてスクロールを一覧で並べる。


 「全部で7250種類のスクロールがあるのか…… これ全てを覚えていたら何年かかるんだ? 」

 とりあえず、ワールの日記から取得しておいた方がいいスクロールを覚えておこうか…… それでも徹夜になりそうだ。



 別に翌日にすればいいんだけど、俺は黙々とスクロールを習得していく。死にたくないから力を…… という感じですはい。



 そしてスクロールを習得し続けて、いつの間にか寝落ちして朝になっていた——

 スクロールを習得している時に覚えているのは空が夏が近いのかうっすら茜色になっていた事だ。多分、地球でいうならAM5時から6時ぐらいかな? 寝てる時間は3時間ぐらい、あーつれーわ寝不足だわ。チラッチラッ。



 「オッサンおはよう…… 」

 「おう若造、昨日は夕食を無駄にしやがったな…… まぁ俺の賄いになったから良かったが…… なんだ顔色が悪いな? 」


 宿屋のオッサンが怒りから心配へと顔をかえる。このオッサンは素はいい人なんだろう。

 疲れがあると見てスッとコップに水を注いで渡してくれる。オカンかな?


 「すみませんオッサンさん寝不足です」

 「いや俺の名前はオッサンではない」

 「あ、はい…… 昨夜はどうしても片付けないといけない事がありまして…… 」


 オッサンではない…… と少し落ち込むオヤジが可愛い。ゴッツイけどな。

 「えっと、ちょい出かけたいんですが…… 場所が分からなくて」

 「顔色がマジで悪いぞ?寝てないんじゃないか? …… まぁ、いい疲れたら帰ってこいよ? で、どこに行きたいんだ? 」

 「はい、冒険者ギルドに行きたいです」


 異世界もののセオリーは一応は抑えておきたい今日この頃ですはい。

 それに—————— 『鑑定』した時に自分の名前の下にレベル表記がされていた。

 これはつまりこの世界はゲームのようなレベルアップが期待出来るという事。

 さらに言うなら、いくら金があって星単位でアイテムを持っていても高レベルの人または魔物から攻撃されたらアッサリと死ぬという事でもある。



 「なんだ若造は商人じゃなかったのか? 」

 「いえいえ、ちょっと思う事がありまして…… 」

 なるほどギルドの依頼者側かと勝手に納得してくれるが、やはり顔色をじっと見つめてからため息をつくオッサン


 「まぁ、荒事をしないならいいか。場所は教えるが必ず危なくなる夕刻前には帰ってこいよ? 俺はまだ仕事があるからなついて行ってあげれない」

 あれ?彼女かな?このオッサン。

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