第13曲 爪を研いで待つ不幸の元へ

タイトル:「アルルの花」 傘村トータ 歌  結月ゆづきゆかり&紲星きずなあかり

ジャンル:ボカロ

URL:【 https://www.youtube.com/watch?v=EY5gq1KwrD0 】

曲構成:A-B-S/A-B-S/C↑S


 今回は参考の歌い手さんはありません。多分、原曲が一番綺麗です(20210701現在)。

 そして、個人的にはとても解釈が難しい曲だと思います。


 というかもう、今回はこれを見てくれた人に全部解釈は任せたいくらいです。紹介の枠だからということでここで終わりにしてもいいのですが、まあ少しだけ。


①概要


 作者は傘村トータさんです。この方の曲を紹介するのは、「晴天を穿うがつ」、「シリウスの心臓」に次いで三回目です。

 どちらかというと、「シリウスの心臓」の曲調に近いかもしれませんが、しいていえばという程度で、実際はそう似ているものではないと思います。

 

 アルルの花というのは、「アルル」という花の名前があるわけではないと思われます(花にはさほど詳しくないので誤っているかもしれません)。当然、ぷよぷよのキャラクターの名前でもありません、多分。

 アルルという地が南フランスのプロヴァンス地方にあるそうです。そこの花ということでしょうか。その場合、ある花の名前が浮かび上がってきそうです(後述)。

 


 で、歌詞なんですが、これがまた難解です。


 たとえば「晴天を穿つ」であれば、ストレートに想いが伝わってくる、直情的な歌詞なように思われます。テンポの速さと合わさって、それがあの曲の爽快感を出しているともとれるわけですが、この曲の場合は、倒置(?)や比喩ひゆなど、まず日本語として難しく感じます。


 ただし、普通に聞いていても伝わってくるのは、一人称「あたし」が二人称「あなた」に対して、非常に強い後悔こうかいを抱いていること、それほどまでに愛していたこと、「あなた」はもう「あたし」の側にはいないこと(究極的には死んでしまっている?)です。

 

 個人的には同氏の「小説 夏と罰(下)」(曲名です。(上)もあります)に近いものを感じるのですが、いかがでしょう。



②アルル

 この意味はフランスの地名ということにして、では関連情報としてはどんなものがあるのか。調べると、真っ先に出てくるのが、画家(ファン・)ゴッホの情報です。


 ゴッホは亡くなる二年前頃からこの地に居住し、たくさんの絵を描いていたようです。ただし、この地で死んだわけではないです。


「アルルの女」は有名ですが、もっと有名な「ひまわり」もこのアルル時代に書かれたとか。どの「ひまわり」? と思いますが、少なくとも一番有名なものはこの時期に描かれたものらしいです。そうなると、アルルの花というのは、「ひまわり」のことかともとらえられるわけですね。


 ゴッホとの関連は他に何から見出せるのか。

 たとえばPVの背景が黄色であることが挙げられます。アルルという地の日照にっしょう時間の長さが関係しているのか否かはわかりませんが、この時期のゴッホの絵は黄色が目立ちます。それと関連を見ることはできなくもない。


 周知のとおり、ゴッホは著名な画家ですが、同時に定説では拳銃けんじゅうで自殺したことにもなっているように、その最期についてもしばしば注目が集まります。

 もし「あなた」=ゴッホとしたなら、その唐突とうとつの死に対して後悔をする「あたし」は誰になるでしょう。少し伝記を開くと、ゴッホの人間関係の中にそれに当たりそうな人物は、結構います。

 例えば、弟テオ(テオドルス・ファン・ゴッホ)であったり、その妻であるヨーであったり、アルル時代にともに生活したこともあるゴーギャンであったりです(耳切り事件などによって仲違いしてしまったようですが、その後も手紙の往来はあったとか)。

 

 この曲において、一番印象的な歌詞は、一番サビにある次の歌詞です。

 

  爪をいで待つ不幸の元へ あなたをひとりでやってしまったんだわ

                          動画概要欄より

 

 これはつまり、見捨てるとまでは言えずとも、死という最大の不幸の待つ場所へ「あなた」をやってしまったという風に読み取れます。

 ゴッホが死んだのはアルルではありませんでした。アルルにとどまれば死ななかったとは限りませんが、仮にそうしてみた場合、彼を死に追いやることとなる場所へ自ら追いやってしまった、止められたのに止めなかったという後悔を周りの人間が抱くのは当然のように思えます。


 個人的に曲の雰囲気に一番合っているかなあと思う弟のテオは、兄の死に相当な衝撃を受けたようで、翌年に病で亡くなってます。献身的に兄を支えた弟としては、兄の死は受け入れがたいものであったでしょう。同時に、仕方のないこととはいえ、自殺を止められなかったことに対して深い後悔を抱いていたとしてもおかしくありません。

 ゴッホと、テオを始め彼を取り巻く人々の歌として見る事もできるだろうと、私などは思います。



③ひまわり

 が、必ずしもそれだけではないんじゃないかと、私は思います。


 当然のことながら、曲中にはゴッホの名前は一切出て来てはいません。あくまでPVの黄色と、アルルという地名から推定できるに過ぎないのです。

 無関係と言い切ることもできませんが、それが主題と言い切ることもできないということです。

 

 アルルの花を「ひまわり」と考えた。そこで一度解釈を止めてみましょう。

 つまり、その背後にある(かもしれない)ゴッホについては一度置いておくということです。

 「ひまわり」の花言葉を調べたところ、「あなただけを見つめる」「愛慕」「崇拝」「情熱」などが出てきました(https://greensnap.jp/article/7877)。歌詞とも一致するところです。

 また、紫のひまわりは「悲哀」、オレンジのものは「未来を見つめて」などの意味を持つとか。ただし、PVが黄色なので、一般的な花言葉を念頭に置くべきかもしれません。



 で、ここでなんですが、ひまわりは本数によっても花言葉が変わるようです。

 もしもPVをただの黄色ではなく、無数のひまわりの咲く場所だとするなら、例えばこんな意味があります。

  

  「何度生まれ変わってもあなたを愛す」


 これは999本のひまわりの花言葉だとか。

 「午後」という言葉が二番のサビに出てきますが、これを生まれ変わった後ととるならば、ぴったり合いそうな感じです。

 

 ひまわりを示し、背景にゴッホの生涯をも想起させながら、「あたし」と「あなた」との関係を歌う曲ということになるでしょうか。


 

 

 

 傘村トータさんの曲は、歌詞もさることながら、間奏が綺麗な曲がとても多いですす。この曲もそうですし、「小説 夏と罰(下)」や最新曲の「花めづる君」も同様です。

 歌詞は難解ですが、それを踏まえても、いやそれが故に、奥深さを感じます。

 べた褒めですが、全盛期に比べれば勢いをひそめている現代ボカロ文化の存続を担っているボカロPの一人だと、私は確信しているので、これは忖度などではなく、本心です。


 ぜひ、聞いてみてください。美しさに、心を奪われると思います。

 さて、今回はここまでにしましょう。また次の曲でお会いしましょう。蓬葉でした。


――――――――

 ちなみに、地味にPVが200越しました。衷心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます。

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