第18話 7-2 良い報せ
死神少女は浮足だっていた。
自分の欠けたものを全て取り戻すのに一気に指がかかったのだ。
少女の魂それ自体が望んでいるようでひどく心が騒ぐ。
上司はようやく期待していた反応を少女がとったことに喜び極まって拍手をする。
次いでおどけながら力なくうなだれた。
「といってもあまり精度は高くない。現に一つしか網にかかっていない。これも訳ありなことを考えると期待されると困る」
落胆を隠せず肩を落としている少女を見て上司は苦笑した。
己の粗相に気付いた少女は取り繕うように上司が言っていたことに疑問をぶつけた。
「訳あり……ですか」
「そう。君の魂の波長といえばいいかな。魂が移されていたことに加えて生きた人間の魂と一時的にでも結びついたからか今でも魂の波長が生きている。複数の事例と関わったおかげで波長の発生源の目途が立てられた。それで調べたのだが奇妙な反応をしていてね。もう死んでいると結論付けるのがしっくりくる」
「どうすればいいのでしょう。そもそも死んで時間が経っているのならもう刈られていてもおかしくないですよね」
「死んでいるのに継ぎ足されていた運命分生きている側に分類されていたようだ。そのせいか今まで感知されなかったようだ。本人の意思に関わらず浮遊霊となっているのはかわいそうだから手早く見つけて断ってあげよう。仕事自体は早く済みそうだから冥道居士のことは一端置くといい。それにサンプルを集めるだけ精度も上がるかも」
こちらの不手際だと付け加えた上司は申し訳なさそう天井を仰ぐ。
悩まし気に腕を組み、愁いを浮かべたが少女が瞬く間もなくくるりと表情をひっくり返した。
「見つける際に何か問題は起きるでしょうか」
「分かっているのはあくまで指の場所に過ぎない。だが、魂は指を此岸に留まる依る辺にしているはずだからそこまで距離は離れていないはず」
「それでは直ちに向かいます」
「まあ、待ちたまえ。話はまだ終わってない。仕事好きを気取ると後で大変だ。過労死こそしないが私たちは職務を果たすくらいしかない憐れな魂細工なのだからそれに倦むようになるととても厳しいものになってしまうよ」
口上がいつものものになっていく素振りが見え始めたので少女はそれとなく口に手を当てる。
上司はばつが悪そうに口がこわばらせた。
「それで話とは」
上司の忠告を気に留めつつもようやく話の終着点が見えてきたと感じた少女は話を急かす。
上司は二歩下がって壁に寄りかかり、にこやかな顔のまま心底恐ろしそうに身を震わせてみせた。
「他ならない冥道居士のこと。今回の甲の話が現実のものとなったらと考えたら恐ろしいよ。私たちもお役御免だ。いつかはそうなるかもしれないがね。まあ、甲の言う通り誰もが飛びつく話だ、もっと知られていてもおかしくない……がそうでもない。だから冥道居士自体にとっても初めての試みだったと私は推測しているよ。人一人用いるのは今の時代ではリスク高いからあり得ない話ではない」
上司は腕を組んだまま人差し指を真っすぐと立てた。
その指先が少女に据えられると蜻蛉を捕らえようとするように指先は円を描く。
「冥道居士はなるべく早めに刈りたいね。君には重い話だが一番正確に感じ取れるのは縁のある君だ。時間が迫ったらまた同じことをしかねないし、そうなったらまた私たちでは感じ取れなくなる。肝に銘じておいてくれないか」
「分かりました」
「よろしい。今回の件は少し遠くになるけれどまあ今の精度では他の場所を探すのにも時間がかかる。ゆっくりと取り掛かるといい。ああそうだ、最後に一回くらい君への思いの丈を」
「失礼します」
仰々しく膝を折り、傅く上司に目もくれず少女は部屋を出る。
何やら謳い上げているようだったが扉越しではくぐもって何を言っているのかは分からなかった。
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