第7話 3-3 ペンダント

 少女は空を飛んでいる。

死神唯一の友のカラスに掴まって。

後肢に片手で掴まり、片手で鎌を携えて。

生身でこの風を浴びることができたならどれほど心地よかっただろうかと少女は思いを馳せずにはいられなかった。

これほど便利なのに少女があまり使いたがらなかったのは書類を書かなければならないからだった。


 曰くカラスは死神の友であり、道具ではない。

死神を助けた時間に応じてそのカラスの因果律を良きものに書き換えるために正確に記す必要があるだとか。

それ自体は多少面倒止まりで構わない程度なのだが問題は提出先であり、当然あの上司。

悩みを振り払うように少女は片手で勢いよく鎌を垂らす。

その後やや持ち上げ掬い上げるような構えを取った。

 風を切り、車をいくつも追い越し、谷森との距離は縮まっていく。

米粒ほどだった谷森が徐々に大きくなり、真上に位置したところで少女はカラスから手を離す。

落下しながら少女の鎌は下弦を描く。

それは谷森を深々と刺し苦痛もなく此岸との繋がりを断つ……はずだった。

谷森は迫る死に意識を向けることなく加速するために費やし、少女の予想を超えて引き離した。

鎌は背中を掠める程度に留まるが、魂を直接切り裂かれた谷森の体は大きく揺れる。

一方の少女も痛みこそないものの強かに体を打ちつけた。

生前の名残か瞬時に着地体勢を取ろうとしたのが仇となった。

転がりながらどうにか整えて不出来なスタートを切る。

前のめりに駆け、何度もつんのめる。

転びそうになりながら少女は走り、鎌を何度も振り払う。

鎌が掠める度谷森の動きは鈍くなり、ついに深々と刃が抉った。

谷森の体が崩れ勢いよく投げ出される。

ペンダントが外れ、地面に激しく打ち付けられると中に納められていた何かが草むらに転がり落ちた。

谷森の指は少しでも逃れようと地面をかく。

少女は介錯するように鎌を振り下ろした。


 少女の記憶に刻み込まれたものは朧げなものだった。

今にも眠りそうなぼんやりとした意識の中自分を取り囲んだ人たちが私の体に触れている。

その顔ぶれの中には知らない顔もあったが、自分が狩った人間も含んでいた。

若いが林河原に雨出、少女と同じくらいの女の子には今狩った谷森の面影がある。

何かの音が耳に滑り込んでいく度体が軽くなっていく。


 野次馬のがやと救急車の音で少女は我に帰った。

立ち去ろうとして思い直したようにペンダントの中身を探し出すとそれは小さな骨だった。

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