吉良邸にて赤穂浪士の討ち入りを迎え討った二刀流の剣士、清水一学。台所であっさりと討ち死したと伝えられる彼だったが、実は落ち延び、一生一学と名を変えて20年を生き抜いていた。が、そこへ赤穂浪士を名乗る人斬りが現れ、彼の隠遁生活を断ち斬る——!
主人公を一学さんに据えたのは実におもしろいですねぇ。記録と忠臣蔵歌舞伎とでかなり異なる人物像を持つ方ですし。このお話では歌舞伎や近代創作物で描かれた剣の達人である彼を採用しているのですが……その剣を起点にして、20年前の「因縁」がドラマチックな決闘へと繋がっていきます。
剣劇の描写がいいんですよ。挙動のひとつひとつが鮮やかに表現されていて、さらには間(ま)というものがしっかり感じられて。
そして流れ着くエンディングもまた、「忠義」というものを中心に据えた寂寥のロマンをほろほろと味わうことができるのです。
江戸という太平の世に在る剣士の儚さと強さ、じっくり噛みしめてくださいまし。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)