住むことになった日

「さあ、改めて昨日の話をしようか。」


「ああ。」


「チチッ!」


茶を飲むアロエ、牛乳を飲む私、水の入ったお椀のフチに立つチクリ、三匹でテーブルを囲んで話し始める。牛乳がうまい。


「まず聞きたいのは昨日の作戦が成功したかどうかってこと。これが一番大事だね。」


「大成功だったぞ。あいつは足が遅かったし私は足が早いからな。すぐに湖に着いた。入口にもすぐに入れた。 」


「魔法使いとは?本当に戦ってないの?」


「戦ってないって言っただろ。舌は全部チクリにやられた。」


「そっか。ちょっと未だに信じられなくてさ。こんなに大人しくて賢いのに、意外と容赦ないんだね。」


「チィ!チュチィ!」


チクリが跳ねてる。こいつ喜んでやがるな。

この前まで人間のこと嫌ってたくせにアロエから飯貰った途端になつきやがって。


「お前何喜んでるんだよ。そんなに褒められてないぞ。」


「ヂュヂュ!」


「何言ってるか全然分かんないけど小鳥って本当に可愛いね。」


「チィ~~チチッ!」


なんだよそれ。私と一緒にいた時そんなに跳ねなかっただろ。

簡単なヤツだな。


「それより、これからどうしたらいいんだ?あいつはもう私の事追ってこないのか?」


「問題なのはあの魔法使いじゃないんだよね。彼は傭兵─簡単に言うと、村長から君を追いかけろって命令されてる人─だから、村長が諦めるまで君を追いかけるよ。」


「まだ、この家から出られないのか。」


「うん。まだ森には帰らない方がいいだろうね。昨日の逃げたふりだって、君がこの家の反対側の湖の方へ逃げたって彼らに思わせるためで時間稼ぎにしかならないし。」


「じゃ、じゃあ、私はいつ森に帰れるんだ?」


「今はまだ、わからない……。でも、何かいい方法があるはずだよ。よく考えればきっと見つかる。」


なんだよそれ。いつ帰れるかもわからない、外に出るのも危ないって。

人間って本当に面倒だな。

私はただ生きてるだけなのに。

人間のこと殺すわけじゃないのに。

……でも、美味い飯がずっと食えるのは……ちょっと、いいな。


「いつ見つかるかは分かんないけど、君がこの家にいる間は僕が守るからさ。大丈夫だよ。」


「ヂィィ」


「あ、ごめんごめん。君もいたね。君はどうする?この家で暮らす?」


「ヂュ。ヂヂヂ。」


そんなに飯が欲しいのか。

たしかにアロエの飯は美味いしな。

もしかしてこいつ懐いてるんじゃなくて飯のために媚び売ってるんじゃないか?


「森の方が好きだから暮らさないってさ。でも飯だけは貰いに来るって。」


「いいよいいよ、いつでもおいで。」


こいつ、何でも許すんだな。

ずっとにこにこしてる。


「なあ、アロエ。お前本当に、私と一緒にいると楽しいからってだけでこんなに良くしてくれてるのか?」


「……どうだろうね。人間って、何もかも言葉にできるほど自分自身のことを知らないんだよ。」


自分のことなのに、自分のことが分からないってことか。私だって、私のことが分からないしな。同じようなものなのかな。


「そうなのか。」


「まあ、とりあえず、これからよろしくね。」


「あ、ああ。」

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