またあいつから逃げた日

「あっ!!」


遠くにいた人間が私の声に振り向く。

よし、あいつ、私のことを見つけたみたいだ。これで一つ目の問題は解決。

次は二つ目。ひたすら走る!


「おい!!待て!!今回こそ捕まえてやるからなァ!!」


おおお簡単だな!

ちゃんと追いかけてきた!

これならもう猫になってもいいな。

一気に引き離してやる。


「なっ?!お前ェ!猫になれんのかァ!!逃がさねェぞ!!」


あっ、そうだ。

引き離しすぎるとダメなんだ。

湖の少し手前で一気に引き離せって言われたな。忘れるところだった。


「なんだァ?!疲れてきやがったかァ?!情けねェなァ!!」


本当にうるさいやつだな。

追いかけるときに大声出すなんて馬鹿がすることだぞ。獲物に逃げてくれって言ってるようなもんなのに。

あいつわかってるのか?


「くそォ。全然近づけねェ!からかってんのかテメェ!!」


ほんのり水の匂いがしてきた。

そろそろ引き離すか。

えーと、湖に着いたら……そうだ、木の裏にある入口を探すんだったな。


「ま、まて!!待ておい!!逃がさねェ!!」


待つもんかよ!





あれ?思ったより早く着いたな。

やっぱり猫のからだって便利だ。

よし、さっさと入口見つけて帰るぞ!


「ヂヂッ!」


「うわっ、チクリ?!」


まさか今日出会うとは思ってなかった。

というかこいつめちゃくちゃ怒ってるぞ!


「ヂヂヂッ!」


「あ、後で説明するから……!今は静かにしてて。」


「ヂチュ!!ヂヂッ!!」


全然話聞いてくれないな。

心配だったのはわかるけど、今静かにしてくれないと私が大変だよ。


「ごめんチクリ今日は本当に構ってられない!」


「ヂッ?!」


大きく口をあけてチクリの頭を咥えた。

猫の姿だと手で捕まえられないのが不便だな。

歯は立ててない。

歯は立ててないからきっと死なないはず。


「……ッ!!」


わああ口の中でめちゃくちゃ暴れてる!

痛ッッッ!痛い痛い痛い!!


「ン゛ッ!」


何?!今度は穴に落ちたんだけど!

早く入口見つけなきゃいけな────

え……もしかしてここか?

こんな偶然があるのか。

私はなんて運がいいんだろう!

このまま突き進めばもうアロエの家だ。

少し走ったらチクリも口から出してやろう。痛いし。

すごく痛いし。



そろそろ出してやるか。早いかな。

あいつにチクリの鳴き声聞かれたりしないかな。

いや私の口の中の方が大事だ。


「ヂヂュヂュ……」


「よかっあ。生きえあ。」


舌が傷だらけでうまく喋れない。

確かに急に口の中に入れたのは悪かったし申し訳ないと思ってるけどさ、なにも本気で噛まなくてもいいじゃないか。


「ヂッ!ヂュヂュッ!」


「おまえおせいえ、うまくしゃべえあいんやよ。」


ちゃんと言葉が通じてるのか?

それにしてもなんだこいつ。

そんなに怒ることなのか。

森にいた時も何日か会わないことなんてよくあったじゃないか。


「ヂヂヂッ!!」


「しゃええあいんあよ!あまっえ、ういえこい!ばか!」


もういい、ここなら人間の姿になっても問題ないし、チクリのやつを引っ掴んで無理やり連れてってやる。





「おかえり。」


狭い穴を抜けた先で、たくさんの草の匂いと共にアロエの顔が見えた。


「いげあえあ。」


「……ど……どうしたの?」


「ヂヂ」


今の状態じゃ会話は難しいかな。

どうしよう。


「え、その鳥は何?」


「ヂヂュ。」


「おもまい。イクイ。」


「ま、まって!口開けて!」


アロエがぐっと顔を寄せてくる。


「なにこの傷?!魔法使いと戦ったの?!」


「いがう。こいうをくいいいえああこうあっあ。」


「も〜何言ってるか分かんないよ。もう何でもいいから、まず!とりあえず!舌の治療しよう!」


「わかっあ。」

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