少女
夢を見た日
あの家を出てから、夢を見るようになった。
夢に出てくるのはいつも私。
でも私じゃない。
私が今の人生を生きる前の私達のこと。
前世の記憶、みたいなものなのかな。
今日もまた、夢の中にいる。
「やあ。よく来たね。」
「一ヶ月ぶりだね。」
夢の中の私はとても大きい。
人間の何倍もある。
「さて、何をどこまで話したかな。」
「私が不死身だってことは聞いたよ。」
「ただの不死身じゃなく─」
「子供の状態に回帰するんでしょ。」
「ふむ。そこまで話していたか。では今日は私の魔法について話そう。」
昔の私の口から出る知らない言葉達は、私の耳に入った瞬間に私の知っている言葉になる。「魔法」なんて初めて聞いたのに、私はもうそれが「体内の魔素を利用した様々な技術・現象のこと」だと理解できてしまっている。
「不思議かい? 」
「何のこと?」
「知らないはずの言葉を一瞬で理解出来ることが、さ。」
どうしてわかったんだろう。
「私は他人の心が読めるんだ。まあ、心なんか読めなくてもわかってしまうけど。君は私で、私は君だからね。君が知るはずの無い言葉をすぐに理解できるのもこれと同じことさ。昔生きていた私が知っている言葉を、君が、つまり今生きている私が思い出しているに過ぎない。」
「子供に回帰しても昔のことを思い出せるってこと?」
「ああ。そういうこと。さあ、疑問も解決したことだし本題に入ろう。もたついてると朝が来てしまう。」
「それで、私の魔法がどうかしたの?私ちゃんと使えてるよ。」
「魔法の使用は問題ないよ。問題なのは魔素の方。私の体には、魔素を取り込むための能力が備わっていないのさ。」
「じゃあどうして私は魔法が使えてるの?」
「君が今使ってるのは、回帰する時に引き継いだ私の魔素の残りカスだよ。まあ、カスでも君が一年余り生き抜くために必要な分は余裕で残っていたわけだが。」
「で、でも、魔素を取り込めないんでしょ?どうやってそんなに魔素を貯めたの?」
「人間様の力を借りるのさ。人間はこの世界でも特に魔素を取り込む能力に長けているからね。まあ私も仕組みはよく理解してないが、人間に触れると魔素だけじゃなく、魔素を取り込む能力まで貰えるんだ。それを利用すれば後は何も必要ない。まあこの仕組みはあの人間君にでも聞くといいよ。きっと詳しいだろうから。」
「アロエのこと?」
「ああ。」
「どうして知ってるの?私が起きてる時のことも見えてるの?」
「いや、単に私が会ったことのある人間だからさ。君がもう少し育ったらあいつに会った時の話をしてやろう。」
「そうなんだ……。」
「そんなことより気をつけろよ。魔素を取り込めない以上、魔素を使い果たさないことが一番大事だ。ましてや大して魔素を貯めることもできやしない君は特に。」
アロエ、昔の私に会ったことがあったのか。
私の事知ってたのかな。
人間なのにアロエが怖くないのは会ったことがあるから?
「おい話をちゃんと聞け。死んでも知らないからな。」
「うん。わかってるよ。」
「どうだかね。」
───目が覚めた。
夢を見ると疲れる。知らないことばかり。
新しい知識が頭の中を散らかしていく。
私は、何回目の私なんだろう。
美味しいご飯が食べたいな。
この私が何回目でもいい。
今日のご飯の方がよっぽど大事だ。
アロエの家を出てからずっと舌が寂しい。
「チチ。チチ。」
青い鳥が鳴いてる。
ああ、チクリか。
今日も会いに来たのかな。
「おはよう。チクリ。ご飯はもう食べた?」
「チ、チチ。」
「そっか。じゃあ一緒になにか探しに行こうか。」
「チ゛チュ。」
「まだ美味しいもの残ってるかなぁ。」
冬がもう終わる。
チリチリと頬を刺す冷たさもあと少し。
このまま、冬を越えられたらいいな。
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