雷雨の日



怖い。怖い。怖い。


光。大きな音。

地面が揺れる。木が燃える。


みんな逃げる。


水も降ってくる。

体に水がいっぱい着いてる。


体が重い。寒い。


助けて。助けて欲しい。


あの人間なら助けてくれるかもしれない。


魚たくさんくれた。


人間になった私を見ても話しかけてきた。



「たすけて」



森をぬけたらあの人間がいた。


人間の巣の、光の中から出てきた。


暗くてよく見えないけど、葉っぱの匂いがする。


あの人間の匂いがする。



「たすけて」



人間の足元に近づく。



「たすけて」



こっち見て。気づいて。


茶色くて固い足を爪でかく。



「たすけて。こわい。たすけて。つめたい。」



人間の大きな鳴き声。


人間が気づいてくれた。



「びっくりしたぁ。逃げてきたんだね。」



気づいてくれた。顔を近づけてくる。



「うん。こわかった。」



人間が体に手を伸ばしてくる。体に触る。



「今年一番酷い雷だからね。今回は僕も少し怖かったよ。」



「体冷たい。あったかいほしい。」



「ほんとだ。びしょびしょに濡れて冷たいな。はやくあったまらないとね。」



巣の入口に向かう。

葉っぱの匂いが強くなる。


床が硬い。木だ。

何か食べ物の匂いもする。



「とりあえず体拭こうか。濡れたままだと冷えるよ。」



人間が白いひらひらを持ってちかづいてくる。


背中がぞっとした。これはダメ。怖い。



「だめ。だめ。こわい。」



「拭くのはだめかぁ。じゃあ、暖炉であったまる?タオルは床に敷いておくよ。」



「あったかいほしい。」



家の中に火がある。


ごろごろで燃えたのかもしれない。


でも人間は怖がってない。逃げてない。


大丈夫かな?



「火、あぶない?」



「あの火は危なくないよ。ほら、おいで。」



さっきの白いヒラヒラを床に置く人間。


ぱんぱん叩いてる。

すこしだけ私も触ってみる。


やわらかい。

白いヒラヒラは大丈夫みたい。


落ち着く。あったかい。

ヒラヒラは気持ちいい。



「ついでに何か食べる?魚あるよ。牛乳もちょっとあげるよ。」



「魚ほしい!」



魚。魚。人間がまたくれた。おいしい。


魚食べてたら、今度は白い水が出てきた。



「なに?」



「牛乳だよ。甘くて美味しいよ。」



ひとくちだけ。ひとくちだけなめてみる。


おいしい。あまい。魚よりおいしい。


ぎゅーにゅー、おいしい!



「もっとほしい。」



「牛乳はあんまり飲むとおなか痛くなるからだめだよ。また今度ね。」



「もっと。」



「だめ。」



「どうして。」



「君が猫だからだよ。」



「ちがうもん。私猫じゃないもん。」



「あ。あぁ〜……そっか。たしかに。そうだなぁ。」



「もっと。」



「仕方ないな。お腹痛くなったらちゃんと言うんだよ。」



「うん。」



人間はいいやつだな。いいやつだ。








さっきまでなにもなかったのに。


おなかがぐるぐるする。


いたい。きもちわるい。



「おなかいたい。」



「お腹壊したか〜。」

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