第3話
「さあ、上がって上がって!」
「お、お邪魔します…」
こんなにもてなされたことなんて、今まであったっけ。少なくとも私の記憶の上では初めてだ。
「服もボロボロだね…ちょっと待ってて」
レクサはそう言うと、部屋の奥へと行ってしまう。私はその間、ぐるっと部屋全体を眺める。家具も装飾もシンプルで、どちらかといえば質素な作りだけれど、どこか暖かい。そんな印象だった。
「これくらいしかないんだけど…大丈夫かな?」
それはきっと、レクサの部屋着なのだろう。サイズはもちろん私よりも一回り大きいけれど、それ以上にその気持ちが嬉しく、冷え切っていた心が暖まっていくのを感じた。
「あ、ありがとう…」
自分でも、顔が紅潮しているのが分かる。
「暑そうだね、飲み物持ってくるよっ」
そんな私を見てか、そそくさと飲み物を取ってきてくれるレクサ。その時ちらっと、無惨な光景のキッチンが見えた。もし彼さえよかったら、料理は任せてもらおうかな…勇気を出して言えたらだけど。
「おまたせ~」
お茶碗に入ったお茶を、運んできてくれた。とっての猫ちゃんが可愛い。彼が買ったものなんだろうか?それとも贈り物?
そんな事を考えていた時、事件は起こった。
「じゃあ、ゆっくりし」
「ガッシャーーン!!!!」
「へ?」
彼が座っていた所の天井部分が崩れ、一部の木材が床に落ち、彼自身も埃まみれになってしまった。
「…あれ?」
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
これが、私の力である疫病の女神の加護。加護なんて名前だけで、私がいるだけで周りの人にはこうして不幸が訪れる。…さすがのレクサも、怒ってるよね…そう思い彼の方へ視線を移すと…
「ふふっあはははっ!!」
「あ、あの…」
こ、壊れちゃったんだろうか?レクサは上を向いて楽しそうに笑っている。私はただ、不思議にその姿を見つめていた。
「これはすごい!すごいよアテナ!」
彼は頬を赤らめ、少年のような笑顔を私に向ける。ついていけない私をよそに、彼は私に抱きつく。
「え??え??ええ???」
彼は背が高いから、私の顔は彼の胸にすっぽり埋まってしまう。最初はびっくりしたけれど、耳に聞こえてくる彼の心音が、私の気持ちを落ち着かせてくれた。そんな中、優しい声で彼は囁く。
「…アテナ、今まで苦しかったろう?大変だったろう?けど、それも過去の話だ。俺は絶対に、こんなふざけた呪いを打ち破ってやる。君に、幸せな日々を送らせて見せる。必ず」
彼は少し間を置き、改めて私に告げた。
「俺を信じて、一緒に戦ってほしい!」
疫病神の私でも、愛してくれますか? 大舟 @Daisen0926
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