鉄門

@HisFm

鉄門

乾いた風がひゅるひゅると吹き荒び、草木の類も寄せ付けぬ、荒涼とした大地に、その門はあった。鉄の身に、煮え切らないようにじっとりと注ぐ太陽光線を受けて、鈍色の身体を重く、冷たく光らせながら、生けるものの寄り付かぬその地に鎮座していた。門の他に建物は一つとしてない。ただ、一人の男が、門番として門前に屹立していた。門は、果して何をその奥に秘めているのか、我々は知る由もない。門番は動かなかった。時々、厚い目蓋がそのくすんだ目を覆うことだけが、彼が生きていることを示すしるべとなった。彼の視線はずれることなく、定まった方向を向き続けた。彼は一体何を見ているのだろう。何も見ていないのかもしれない。あるいは、全てを見ていたのかもしれない。そして時は経ち、地平線の向こうから一つの影が現れた。一人の、痩せた男である。髪と服は、砂埃に吹かれた所為だろう、煤がかかったようになっていたが、服はそれ自体は上等なのか、男は不思議とみすぼらしくは見えなかった。背を丸め、狭い歩幅で男はとぼとぼと歩を進ませ、やがて門の前へと辿り着いた。男は、門番の右側に、崩れ落ちるようにドサッと座り込み、門へ背をもたれ掛けた。門番は一瞬見下ろすように男を一瞥したが、すぐに視線を戻し、また動かなくなった。男も何も発さない。両者共に、無音であった。風だけが沈黙を無視して吹き続けた。そのまま数日、あるいは数年が過ぎた。門番は短めの溜息を吐いた後、何かが吹っ切れたように門の逆側へ歩き始めた。去る間際、門番は独言なのか、誰かへ向けたのか、判別のつかぬ言葉を残した。「俺の仕事は終わりだ。あんたがどうしたいのかは知らんが、まあ、好きにするがいい。」男は何も発しなかった。鉄門が開かれることはなかった。ここには最初から、何もなかった。

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