新たなる出会い、あるいは古き縁 2
言葉を発さぬまま硬直する影人。その視線は眼前の少女に固定されている。
その影人の放つ尋常ではない雰囲気に飲まれ、生徒会役員が何も言うことが出来ないなか・・・
静寂を破ったのは、やはりあの青年であった。
「おい生徒会長さんよ、今扉を切り刻んで入ってくる必要性あったか?物を大切にしてくれよ。」
と、ため息を吐きながら流は言う。
「ふふっ、ごめんね。でも私だっていつも扉を壊してるわけじゃないわよ?今は流君の気配があったから良いかなって」
「どーせそんなこったろうと思ったよ。つーか俺を完璧に修理屋扱いしていやがんな。はぁ・・・まあいいけどよ。」
流は気だるそうにそう言うと、散らばっている瓦礫の中から適当な物を掴む。そしてそれを扉のあった場所に持っていく。
「三分って所か・・・『
そう流が言った後、部屋の中に少しずつ変化が起きた。
床に落ちていた塵・・・扉が倒れた時に舞い上がった物が浮き上がる。その塵がまた床に落ちた瞬間。
扉の残額が浮き上がり、凄まじい速度で元の位置に戻った。
「よし、修復完了っと。」
満足げに流がそう言った時には、扉は何事も無かったように直っていた。
否、戻っていたというべきか。
「これは・・・」
「驚いた?でも影人くんも知ってるはずよ、彼の能力。」
「
「時能力は希少だから。でもほんとに便利な能力よねぇ。」
その発言に流は呻く。
「便利って・・・道具かよ俺は。あのな、これだって無制限に使えるわけじゃねぇんだぜ。時を逆流させるんだぞ?体力すげえ使うに決まってんだろ。」
影人は辟易した表情の流を見ながら苦笑い。
と、彼の服の裾を引く者がいた。白葉である。
「・・・誰?」
と白葉は眼前の少女を指さしながら小首をかしげる。相変わらずの無表情ではあるが、どことなく警戒の色がある。
しかしその少女の質問に答えたのは影人ではなく、当の少女であった。
いや、答えたというのは語弊がある。真っ先に反応した、というのが正しいだろう。
「ちょっと影人くん、誰そのすっごくかわいい子!ツインテールの金髪金眼なんてフィクションでしかみたことないわ!それに口数と表情が乏しいのも私的にすっごく高ポイントよ!ねえねえ、お名前教えてくれない?」
急にテンションが急上昇した少女にあっけにとられる一同。影人に至っては口が半開きになっている。
「あの、琴音さん・・・?なんか僕の知っている人とキャラが違いすぎるんですけど・・・」
「そうかしら?私に言わせれば影人くんこそずいぶんと変わったと思うわよ。それよりもこの子誰なの?影人くんの妹・・・というわけでもなさそうだけど。」
「彼女は影討白葉といって、故あっていま闇乃家で一緒に住んでるんです。確かに妹ではありませんが、本当の妹のように思ってますよ。」
「へえ・・・白葉ちゃんっていうんだ。あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。」
そういうと少女は小さく咳払いをして、改めて二人に向き直る。
「改めまして・・・影人くんはお久しぶり、白葉ちゃんは初めまして。私は命強学園生徒会会長、高等部三年の
そう言って少女・・・琴音は微笑んだ。
「ええ、これからお世話になります、琴音さん。」
「・・・よろしく、お願いします。」
そう言って、二人は小さく会釈をする。
「さてと・・・これで生徒会役員の紹介は終わったのよね、春香。」
「あ、はい。会長が来る前に紹介しておきました。」
「ふふっありがとう。ほんと、春香がいると安心できるわね。」
「会長も仕事してくださいよ・・・今日だって人を呼んどいて自分は武道場に行っちゃうし・・・」
と、流がそこで思い出したように問いかける。
「あ、そういやなんでこいつらを呼んだんだ?確か会長さんが頼んだ、とか言ってたけどよ。それにどうやら知り合いっぽいけど、影人はあんたがここにいること知らなかったみたいだし。二人はどういう関係なんだ?」
「僕たちの関係ですか?まあ昔から家どうしの付き合いがあって、その影響で知り合っただけですよ。」
「へえ、案外ふつうだな。別にわざわざ呼ぶほどの関係でもなさそうだけど。」
と、どこか期待外れとでも言いたげな表情で流は言う。
しかしその直後、とてつもない爆弾が投下された。
「え?影人くんは私の婚約者よ?。」
・・・・・・・・・・・
しばしの静寂の後。
「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」
迅と白葉を除くその場の全員が叫んだ。
「ってなんで影人まで驚いてんだよ!」
「えっ・・・ちょ、会長?こ、婚約者って・・・?」
流が叫び、開いた口が塞がらない様子の春香が問う。
「婚約者、許嫁、フィアンセ、将来的に伴侶となることを誓いあった関係。」
「言葉の意味を聞いてるんじゃないんです!え?いやだって会長男に興味とかなさげだったじゃないですか。」
「それはほら、婚約者がいるのに他の男となんてありえないでしょ?」
「それはそうかもしれないですけど・・・」
そこでやっと当事者である影人が話に加わる。
「いやあの、琴音さん?いきなり何を・・・」
「いきなりじゃないわよ、そもそも私達が知り合ったきっかけがそれじゃない。」
「そうですけど、今は『元』婚約者じゃないですか。」
「え?会長、そうなんですか?」
「ふふっまあ確かに正式にはもう婚約者ではないのかしらね。」
「いや、そもそも婚約を破棄したのは琴音さんですよね?」
「ええ、そうね。でもその時に私がなんて言ったか覚えてる?」
「それは・・・覚えてますけど・・・」
と、そこで。
キーンコーンカーンコーン
絵に書いたようなチャイムが流れた。
「話が盛り上がってるところすまねえが、そろそろ始業式の時間だ。会長と迅さんと月咲は高等部の生徒会役員として学長に呼ばれてたから、もう行かないと間に合わないぜ?」
「あ、もうそんな時間かぁ・・・って焔くん?なんか私だけ呼び捨てじゃなかった?みんなして私の扱い雑じゃないかな、そろそろ私泣くよ?」
当然のように焔はスルー
「あと、あんたら・・・編入生の二人は始業式には出なくて良い。」
「え?どうしてですか?」
「ん?聞いてないのか?・・・ああ、なるほどな。会長、あんた学長に口止めしただろ、試験のこと。」
「えーなんのはなしかわからないわー(棒)」
「試験・・・ですか?でも編入試験ならもう受けてますけど。」
怪訝な表情で影人が問う。
「はあ、仕方ねえから俺が説明しておくから、三人は早く行ってくれ。」
「ありがとう焔くん。よろしくお願いするね。」
「ふふっ優しく教えてあげてね?」
「どの口でそれを言うか・・・」
ため息を吐いた少年に後を任せ、春香と琴音は迅を半ば無理矢理連れていく。
「それじゃあね、影人くん。また後でゆっくりお話ししましょう?」
「ええ、楽しみに待っていますよ。それではまた後で。」
三人が出ていったのを見届けた焔は、影人達に向き直る。
「さて、じゃあこれから行われる試験について説明するぞ。まずこれが何の試験か、って所からでいいか?」
「はい、お願いします。」
「これから行われるのは、クラスを決める実技試験だ。」
「クラスを決める、実技試験・・・ですか?」
「ああ。能力を使った模擬戦闘をしてもらう。勘違いしないように先に言っておくが、戦闘力が高いか低いかでクラス分けするんじゃないぞ。これは高い戦闘力を持った生徒が一箇所に集中しないようにする為のバランスを取るためにやるものだ。試験というか体力測定の様なものと考えれば良い。」
「なるほど・・・模擬戦の相手はどんな人ですか?」
「普段は学生同士でやるんだが、今回の編入生はあんたらだけだからな。特例として教員が相手をする。」
「純粋に力量を測るわけですね。今回は勝ち負けではなく教員相手にどれだけ戦えるか、といったところでしょうか。」
「話が早くて助かるぜ。細かいルールは後でまた要項を渡す。」
「わかりました。ところで・・・先ほど月咲さんは僕と同じクラス、と言っていましたがそのクラス分け方法ではまだ同じになるかはわからないのでは?」
「あー、まあ月咲は少し特殊なんだよ。まあそう遠くないうちにわかるとおもうぜ?」
「そうですか、なら今必要以上に気にするのはやめておきましょう。」
そう言ったあと、影人は背後の白葉を見る。
「白葉、何か質問はある?」
「・・・大丈夫。」
と言いつつ、腕は強く赤龍を抱いている。
まるでそれに縋るように。
「・・・水無月さん、僕達は始業式に出なくていいんですよね?」
「ああ、午後の試験に向けての準備とかする時間が必要だからな。つーか本当はもっと早く色々準備する・・・っていうよりルールとか細かいことは事前に確認してくるんだが、うちのバ会長が面白そうだからっていう理由で説明してなかったせいで更に時間がないから、気にしないで準備に入ってくれ。」
「わかりました。午後ということは少なくとも12時までに戻って来ればいいですか?」
「ああ、問題ないぜ。あ、でもそれまでここに戻らないってんなら、要項はもう渡した方がいいな。」
そう言って、焔は厚さ1cm程もある紙の束を取り出す。
「はい、これが要項。」
「・・・とても読み切れそうに無いのですが。」
「ん?ああ、別に全部読む必要はねえよ。本来は学生同士の模擬戦だから深刻な事故を防ぐ為に細かいルールが設定されてるが、今回は教員、つまり大人が相手だからそこまで規則はうるさくねえ。最初のページに書いてあるおおまかなルールだけ確認しといてくれ。」
「なるほど、わかりました。では、僕達は一旦失礼させていただきます。」
「じゃあまた後でここに来てくれ。」
そう告げる焔に軽く一礼し、影人と白葉は部屋を後にした。
生徒会室を出た二人は、中庭に来ていた。
始業式の最中ということもあり、周りに人影はない。
「ごめんね、白葉が知らない人がたくさんいる場所に慣れてないのは分かってたのに・・・」
影人は隣を歩く少女にそう言う。
「・・・大丈夫」
白葉は相変わらずの無表情で影人に告げる。しかしその言葉とは裏腹に、その腕は強く赤龍を抱いている。
立ち止まり、白葉を優しく撫でながら影人は微笑む。
「僕に対して気兼ねすることなんて無いよ。だって僕と白葉は家族なんだから。僕はいつでも白葉の力になるし、支えになりたいと思ってる。だから不安があったらいつでも僕を頼ってよ。」
「・・・分かった。」
その言葉に満足した影人は、腰を落ち着ける場所を探して歩き出そうとした。
と、彼の服の裾を白葉が掴む。
「どうしたの?」
「・・・影人は、頼っても良いって言ったよね?」
「うん、確かに言ったよ。」
「・・・手、繋いで。」
白葉はそう言って、右手を小さく差し出す。
影人は愛おしそうに白葉を見つめ、その手を握った。
「白葉、不安にさせてごめんね。でも、僕はいつでも君の味方だよ。」
「・・・不安なんかじゃない。・・・どんな時間、どんな場所でも・・・私は近くに影人が居れば・・・それだけで大丈夫だから。」
そして、白葉は影人の目をしっかりと見て。
「影人さえ・・・あなたさえ居れば、私は生きて行けるから。」
その言葉を聞いた影人はただ無言で、握った手に力を込めた。
絶対に、離すことの無いように。
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