新たなる出会い、あるいは古き縁 1
男子二人と女子一人、そして二匹の狼は学園の広い廊下を歩いていた。ただでさえ影人と白葉は衆目を集める外見である。そこにさらに狼とあっては周囲の生徒が注目するのは当然と言えた。
「誰?あの子達。あんな綺麗な金髪の女の子居たっけ?
「お人形さんみたい・・・」
「お、でっかい犬だな。凛々しいツラしてやがる。」
そんな周りから聞こえて来る囁きに、影人は苦笑いする。
「流石に目立ってますね・・・まあ仕方ないですかね。」
「ま、こんだけ個性的な面々が揃って歩いてるんだ。見るなって方が無理な話だろ。気にせずさっさと生徒会室に行こうぜ。」
周りの視線など全く意に介さず、流は歩き続ける。
その背中に白葉は声を掛ける。
「・・・まだ着かないの?」
「この学園バカでかいからな、すぐには着かないさ。」
「まだ敷地内なのは凄いですね。もう少しかかるならやっぱり玄に乗っていこうかな・・・」
影人はそういいながら傍らの黒狼を撫でる。それに答える様に玄は低く吠えた。
「うん、ありがとう。でももう少し歩いてみるよ。」
「ま、さっきはああ言ったがそろそろ着くぞ。」
その言葉を聞き、影人は表情を引き締める。
「・・・生徒会室、ですか。そこに行けば大体の事情がわかるんですよね?」
「ああ、そのはずだ。まあそう構えなくても平気だと思うぜ。」
そういうと彼は、豪華な装飾の施された扉の前で立ち止まった。
「さあ、心の準備は良いな?」
「・・・構えなくても良いと言ったのはあなたでしょう。」
「ははっ、確かにな。じゃ、入るとするか。」
そう軽く言うと、彼は戸を叩いた。
「高等部二年の時逆っす。編入生二人を連れて来ましたー」
「あ、お待ちしてました。どうぞ、入って下さい。」
流が名乗ると、中から女性の声で返事があった。
「じゃ、ついてきてくれ。・・・失礼すんぞー」
流の言葉に従い、二人は彼の後に続き生徒会室に入る。
扉の先には、全体的に落ち着いた茶色でまとめられた綺麗な部屋があった。
中心に大きな木の机があり、そこに4人の男女が座っている。
さらに奥には一人用と思われる机がある。しかし、こちらの机には誰も座っていない。
影人達が部屋に入ると、机の隅でノートパソコンに向かっていた、茶髪で人の良さそうな顔立ちの少女が立ち上がった。
「どうもありがとうございます、時逆さん。この方達が編入する人で間違えありませんか?」
「ああ。こっちの金髪の嬢ちゃんが中等部二年に編入する子だ」
「・・・白葉。影討白葉・・・です。」
と、白葉は平坦な声で自己紹介をする。
自分の名を言った彼女は、影人の背に隠れた。
表情は変わらないが、抱えている龍のぬいぐるみをさきほどより強く抱いている。
それをみた影人は微笑みながら白葉の頭を撫でる。
そのあまりにも絵になる光景に、生徒会の少女はしばし呆気に取られた。
そのなんとも言えない空気のなか、しかし流は何も気にすることなく影人の紹介をする。
「で、こっちの顔色が悪い方が高等部一年に編入する生徒だ。」
「あの、僕の認識がとりあえず顔色の悪い人になってるんですけど・・・まあ概ね合っているのでいいですけどね。えっと、僕は闇乃影人と申します。今日からこの学校の高等部に通わせて頂きます。」
と、影人は少し苦笑いしながら名を名乗った。
生徒会の少女はそこで我にかえったのか、すこし慌てながら話し始める。
「ご、ごめんなさい。少しぼーっとしちゃいました。えっと、ご丁寧にありがとうございます。初日から生徒会室にご足労願いすいませんでした。会長がどうしても、というものですから。」
「生徒会長さんが?」
影人は少し怪訝な顔をして問う。
「ええ。と言っても、会長は今たぶん武道場にいるので近くにはいませんが。」
少女はそう申し訳無さそうに言う。
「さて、会長がくるまでまだしばらく時間があると思うので、生徒会メンバーの紹介でもしましょうか。とりあえずまずは私から。
改めてはじめまして。私は生徒会会計で高等部一年の
「こちらこそよろしくお願いします、月咲さん。あ、僕の事は出来れば下の名で呼んでもらえますか?」
「え・・・。わ、わかりました。では影人さん、これからよろしくお願いします。」
お互いに何度もよろしくお願いしますと言い合う奇妙な掛け合いが終わると、春香は他のメンバーの紹介を始める。
「じゃあ次は・・・焔くん、来てくれる?」
「あ?・・・ちょっと待ってろ。」
と、一房だけ紅い髪を持つ少年が答えた。
程なくして、机の上で書類と格闘していた目つきの悪い少年が立ち上がる。
「悪い、待たせたな。あー、自己紹介すりゃいいのか?」
「焔くん、影人さんも時逆さんもあなたより年上よ?もっと丁寧な口調で話せないの?」
春香はそう少年に言う。が、当の彼は直す気は無いようで構わず話し出す。
「生徒会総務、中等部三年の
それだけ言うと彼は机にもどり作業を再開した。
「あ~・・・。ごめんなさい、彼は悪い子じゃないんだけどちょっと愛想が無くてね。」
そう申し訳無さそうに春香が言う。その言葉に影人は苦笑いした。
「さて、次にいきましょうか。そうですね・・・迅さん、来てください。」
「えぇ・・・良いよ別に、俺の紹介とか・・・。」
春香の声に気だるい声で答えたのは、机に突っ伏してだらけていた青年だった。
「そんなこと言わないで下さい。副会長なんですから挨拶くらいしないとダメですよ。」
「はぁ・・・わかったよ。挨拶すればいいんでしょ?」
青年はゆっくりとした動きで立ち上がると、あくびをしながら影人達の前に来る。
「ちょっ、迅さん失礼ですよ!」
焔の時と同様に注意する春香だが、またしても無視される。
「えっと・・・俺は生徒会副会長。高等部二年の
そう言うと迅はまた机に戻り突っ伏した。
春香は頭痛をこらえる様にこめかみに手を当てる。
「あの・・・本当にすいません。生徒会の男子陣がこんな感じで・・・」
そのなんとも言えない疲労が滲み出ている口調に、日常的にこんな感じなんだろうと察した影人は、
「その、何ていうか・・・お疲れ様です。」
と、まだ会って間もない人をねぎらった。
「あ、ありがとうございます・・・。さ、さて気を取り直して紹介に戻りましょう。」
と、春香の表情が一転して明るいものになる。
「最後の紹介になりましたが、次は生徒会の良心にして私の心の安定剤!ゆかりちゃん、来てくれる?」
「は、はい!ちょっと待ってて下さい!」
春香の言葉に答えたのは、先ほどの春香と同様にノートパソコンに向かっていた青みがかった長髪の少女。
彼女はキーボードをたたく手を止めて立ち上がる。
「す、すいません、お待たせしました。えっと、私は生徒会書記で中等部二年の
彼女は元気にそう言うと、影人の後ろの白葉に笑いかける。
「・・・よろしく。」
その明るく綺麗な笑顔に、白葉も小さい声ながらも挨拶を返す。
その直後にまた影人の後ろに隠れてしまったが、ゆかりは満足そうであった。
「さて・・・これでみなさんの紹介が終わりましたね。」
「あの、少しいいですか?」
紹介を終え一段落したところで、影人は春香に声をかける。
「はい、何ですか?」
「この学校って大学まで一貫なんですよね?なのに、生徒会役員は中等部と高等部の方しか居ないようですけど・・・」
「ああ、それは単純に上の人達は忙しいという事と、人が居ないからという理由です」
「人が居ない?」
「はい。実際の所、ここの大学に行く人は殆ど居ないんです。大体の人は高校卒業資格を得た時点で就職するか、国立の大学に進学するんです。もちろんここの大学に通う人も居ますが、忙しくて生徒会などはやっていられないんです。」
「なるほど、そうなんですか。丁寧にありがとうございます。」
影人はそう言って微笑んだ。
「そういえば、会長さんは今武道場にいるんですよね。」
「はい、そのはずです。多分そろそろ戻って来ると・・・あ、来ました。あの、扉から離れた方がいいですよ。」
「え?」
と、唐突に春香の言った言葉の意味を・・・影人は二秒後に知ることになった。
「はあぁぁぁぁ!」――――――キンッ
鋭く美しい高音と、女性の物と思われる気合いの声を影人が認識した時には・・・
生徒会室の扉はバラバラに切り刻まれていた。
「なっ・・・」
安定感を失った扉は、影人達の方・・・もっと言うと影人の後ろの白葉に向かって倒れる。
「え・・・」
突然の事に白葉は反応出来ない。
影人は硬直した白葉の腕を左手で掴み、抱き寄せる。そして空いている右手を上着の中に入れる。
まるで胸ポケットから何かを取り出す様に。
「『
叫んだ後に上着から抜かれた彼の右手には、重々しい漆黒をした拳銃が握られていた。
影人はそれを、倒れてくるガレキに向ける。
「『
影人はそう言いながら何度も引鉄をひく。
その度に銃口からは音もなく弾丸が飛び、ガレキを吹き飛ばす。
そして、彼が五発程撃った所でガレキの崩落は止まった。
「はぁ・・・危なかった。白葉、ケガは無い?」
「・・・大丈夫。・・・ありがとう。」
「ふぅ・・・っていうか、いきなり何なんですか!」
怒りをあらわにしながら、影人は声を荒げる。
その声に答えたのは、春香でも流でもなかった。
「ふふっいきなりごめんね、影人くん。」
答えたのは、たった今扉を破壊・・・否、切り刻んだ本人だった。
影人は白葉にケガが無いか確認しながら・・・つまり声の主の方向を見ないままに話す。
「・・・ごめんで済むわけ無いでしょう!危うく大怪我を負うところだったんですよ!」
「影人くんがいるのにそんなことあるわけないじゃない。それにしても、影人くん射撃の腕も上がっててお姉さんびっくりだわ」
「何を言って・・・。」
そこで、影人は手を止める。
「待って下さい、僕はあなたに名を教えた記憶はないのですが。」
「あら、ひどいわね。女の子との事を忘れるなんて。私は影人くんから名を教えてもらったわよ、ずっと前に。忘れちゃった?」
そこで初めて影人は相手の顔を見る。そして・・・
手にもっていた拳銃を落とした。拳銃は床に落ちたと同時に形を崩す。
しかし、影人はそんなことを気にしてはいなかった。
否、とても気にすることなど出来なかったのだ。
相手の顔を見ているその顔は・・・驚きに染まっていた。
後ろでまとめられた長髪に、やわらかい笑み。鍛えられ引き締まった体。周囲に威圧感をあたえる独特の雰囲気。
そして・・・銀色の左目。
その姿は、影人の良く知る人物のものだった、
「こ・・・
呆然とした影人の口からでた言葉を聞いた少女は、とても嬉しそうに笑う。
「ええ・・・久しぶりね、影人くん。」
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