下山・一

俺は敵地のド真ん中で泣きつかれて眠っていた

「………なんで殺さなかった?」

『…いろいろ考えた上だ。それに寝込みを襲うなど四天王の名に傷がつく。殺るなら再戦した時だ』


泣きつかれ眠っていた俺を、鬼は既に全身を再生させ腕組みしたまま待っていた。

どれほど寝ていたのかは分からないが、こんなにも寝たのは10年降りくらいな気がする


『お主はこれからどうするのだ?』

不意に聞かれ、俺は目的を思い出す


「妹を助けたい。お前何かいい方法を知らないか?」

そう、これが俺の身勝手さの中に眠るほんの少しの勇気と決意

1人で逃げた先にあるわずかな可能性の帰り道

結局自分の事は回復出来ても相手を癒やす術は身に付かなかった。

だけどここになら何かある、そう直感を信じて俺はこの洞窟、ダンジョンに来たんだ


『助ける、とはどうゆう事だ?』

「それは…」

俺は妹の状態を伝える


『そうか、ならばこれを持っていけ』

そう言って鬼が渡したのはダンジョンコアと言っていたもの。

「確かに凄い魔力を感じるが、これが何の役に立つ?」

正直使い方が良くわからない


『こちらの世界に来る前、戦争の最中1人の勇者が同じような怪我を負った。動けなくなったその勇者はその国の聖女の癒やしの力で怪我が治ったと言う。本来なら聖女と言えどもそれほどの力はないが、その際にダンジョンコアをエネルギーとして使い傷を癒やしたのだとか。余程勇者を生かしたかったのだろう。であればこちらの世界でも似たような人間は居るかもしれないからな。それを持っていけば何か事が起こせるのやもしれぬ』


それを聞いた時俺は喜びに震えた。現代医療では治せなかった妹が治るかも知れないと言う可能性に。だが一つ疑問が残る

「お前はどうしてそこまで俺に尽くしてくれる?正直敵だろう?何が目的なんだ?」


『…我は敗者、勝者に従うまで。……人間とは愚かな生き物ではあるが同時に尊ぶべきものでもあると我は考えている。………戦争が起きる前は、魔族も人族もいざこざはあるものの互いに笑いあっていたのだ。前魔王様が敗れるまではな。今の魔王様は歴代の中でも別格の強さを誇るのは認めるが、やはり所詮は元人間、自らの欲望を抑えられなかったのだろう。』

「え?今の魔王様ってのは人間なのか?」


『元な、自分の国を裏切り、闇の力をもって今の地位を手に入れた。我々魔の者達は強きものに従う定めにある。現在も魔王様の命令を忠実に守る戦士なのだ、我々は。……たとえそれが自らの意思に反しようとな。』


そう言った鬼は淋しげな表情を浮かべる、前の世界できっといろいろあったのだろう、今思えばこいつは1年前に見逃した事といい、いろいろと不自然な所が見られる。きっと元は優しい性格なのだろう。あのキャラも自分の心を守る為に作った偽物って所か、まぁ最後殺されそうにはなったがこいつにも立場ってもんがあったのかもしれない


「許すよ」

『………何をだ?』

「殺そうとしたこと。いろいろ教えてくれたしな。言っただろう?相応の対応を約束するって。」

『………そうか、……ありがとう…』

鬼は俯き何かを考えたあと顔をあげ


『フハハハハハ、我はこの(再生のダンジョン)で力を付け待っているぞ。次に会うときは戦場だ、今から5年後魔王様は動き出す。それまでにもっと力をつけておけ、今のお主も強いが魔王様に勝てるとは思えん。前の世界では10人の勇者と互角に戦った猛者だからな。最後は数の暴力に追い詰められはしたが単体の強さであればあの方は世界最強なのだ。だからそれまでに力を磨き、仲間を集え。余計なお世話かもしれんが今のお主には仲間の存在が必要不可欠かもしれぬぞ?

さぁ、行け。妹を救うのだろう?

早くせねばこの(再生のダンジョン)の総力をあげてお主を追い詰めるぞ。

フハハハハハハハハハハハ!』


鬼はそう言って俺の背中を押した

「俺は妹を助けたいだけだ、そんな化け物みたいなやつと闘うことはしないぞ?」

俺は妹を助けたかっただけで世界を救おう等とは微塵も思わない。そう反論したかったが鬼は聞く耳を持たずダンジョンの奥へと帰っていった


「街か……」

俺はダンジョンコアを手土産に10年振りの街へと下山する

期待と不安の両方を抱えて

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