VS鬼・三
鬼を倒した俺は大広間の奥の小部屋のような場所から、大きさは2メートル程もある光輝く宝石のような物を見つけていた。
「……凄い魔力を感じる」
魔素をコントロールしてから、気配察知の応用で魔力をも感じ取れるようになった。
『………それはダンジョンコアだ』
「おぉ、生きてたのか。あんなになっても再生するとか凄いな」
肉片と化した血の海のなかで頭を半分だけ再生させた鬼が俺に話しかけてきた
「黙っていれば俺に気付かれなかったろうに、まだ殴られ足りないのか?」
『……魔力で気付いてたくせに何を言う』
そう、実は鬼が生きていた事は気付いていた。化け物共を倒した際の魔素の放出もなかったし、気配察知に微かな反応もあったしな
「お前に聞きたい事が山程ある。答えてくれるなら相応の対応を約束しよう」
『…………我はお主に負けた身、いいだろう。わかる範囲で答えよう』
思ったよりも協力的な鬼の発言に肩すかしをくらいながら、俺はこの世界になにが起きたのかを確認していく
話を聞き終えて思った事は人間だろうが魔族だろうが、知力ある者というのは皆等しく、醜く、残虐で、自分勝手だということだった。
事の始まりは地球とは違うその世界で人間と魔族との戦争がきっかけだった。その世界には魔力があり、人間は魔法やスキルで、魔族は魔力を元にした独自の力で日々戦っていたらしい。
変化が起きたのは人間側が勇者と呼ばれる者達をこの世界から召喚したことから始まった。
勇者と呼ばれる者達はとても強力で特に日本という地域からやってきた者達はすぐさまその世界に馴染み、様々なスキルを獲得していったらしい。
その勇者達は魔族との戦争で活躍、ついには魔王を追い詰める事に成功
しかし魔王は残った力を掻き集め、勇者の1人と取引、残った世界の半分を条件に勇者の来た世界への大規模な逆召喚陣を組み込みこの世界へと逃亡。
その際あちらの世界とこちらの世界が大きく繋がった事であちらの世界の魔素が一気にながれこんだ。しかし元々魔素がない場所故に魔素の量が充分ではなく、魔王を始めとした魔族達は能力を著しく落としてしまう。
この事も勇者から聞き及んでいた魔王は逆召喚の際流れ込む魔素を元に各地でダンジョンを生成する。
生成されたダンジョンは外と比べて魔素が豊富で、元の世界程とは言えないがそれなりの能力を確保できる。
そうしてダンジョンに籠もり機を待つ。ダンジョン内で繁殖する配下達を適度に外へ放出すればこの世界の人類が配下達と戦う。
戦って勝てば後は魔王の世界になるのでそれもまたよし、負けてもその度に放出される魔素で世界の魔素濃度を上げていき、最終的には魔王自らが外で不自由なく動けるまでに世界の魔力を変えていく。
これがこの世界に起きた出来事で魔王とやらの計画。
正直怒りを通り越し呆れてしまう。皆自分勝手すぎる。
最初に召喚したっていう王様も他人の人生なんだと思ってんだって話だし、取引したっていう勇者も自分の欲望の為にその世界を簡単に裏切っている。挙げ句魔王様とやらは我が身可愛さにこちらの世界をも巻き込み人類に大きな被害を与えている。
「ホント、自分勝手すぎるよな。皆結局はそうなんだよ、自分の身が一番可愛いんだ。だから平気で嘘を吐き、傷つけ、裏切る」
俺は修行によって鍛え、抑え込んでいた心の感情が爆発する
「何が金だ、誰もそんなもの望んじゃいない、
何が私は味方だ、お前はネタがほしいから俺に近づいただけだろう
何が穏便にだ、1人の人生狂わせておいて結局は自分の地位を守りたいだけじゃないか
何が友達だ、仲間だ、世間だ、社会だ、結局人間ってやつは皆自分勝手な生き物なんだ。
お袋だって勝手に居なくなった、親父だって他にやり方があっただろう!?カッコ良かったあんたの背中は結局は自分の正義の為にやったことだろう?
でも、何が山籠もりだ修行だ、結局は俺も妹を置いて1人で逃げてきたただの臆病者じゃないか!
傍に居てやれば良かったんだ!人間関係に疲れた?だからなんだよ!?全てを投げ出して山に逃げ込んだ俺も、結局は妹を、他人の善意を裏切り逃げた自分勝手な人間の1人じゃないか!
うぅ…うあぁぁあぁああああぁぁぁぁあぁ」
俺は10年前のあの日から、抑え込んでいた心の叫びを爆発させ、10年振りの涙を流す
如何に心の修行をしていても、あの出来事は無かったことには到底ならない。ずっと奥底に眠る感情を抑え込んで、爆発しないように心も磨いていたつもりだった。
だけど久しぶりに自分勝手な、理不尽な行為を目の当たりにして抑え込んでいたはずの感情が漏れる、溢れる、止めることも出来ずに、爆発する
なぜなら俺もまた、我が身の可愛さに1人で逃げた、醜く、残虐で愚かな人間と言う生き物だったから
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