第34話

 こうの話をまとめると、力の暴走で一度死んでしまったようを生き返らせたあと、煌は長い眠りについた。人一人の時間を巻き戻すためには、たくさんの力が必要で、そのために煌自身の生命を維持するための力まで使ってしまった。その後昏睡状態が長く続き、次に気付いたときには体は眠ったままで意識だけがはっきりした状態だったそうだ。そのときには燁はすでに煌の側にはいなかった。

「それで、煌が言うには燁なら煌の居場所がわかるんじゃないかって」

 煌の元へ夢渡ゆめわたりをした翌朝、居間に皆を集めてともえは煌とのやり取りを話した。

 煌が燁の夢の中に来ることができたのは、二人が元々一人だったということもあるけれど、燁の中にどうやら煌の力が相当量流れ込んでいるからだったようだ。燁の時間を戻すときに流れ込んだのだろう。

「だから、力の気配を辿れば煌の元にたどり着けるはずだって」

 どうする?と巴は小さく首を傾げて、長椅子に座る燁を見る。燁の隣には寄り添うようにあおいが座り、その肩を抱いている。

 燁と蒼は、一見すると蒼のほうが燁に執着しているように見えるが、実はその思いは燁のほうが大きい。燁にとって蒼が何よりの心の支えであることを巴は知っている。

「……でも、今は煌に会いに行ってる場合じゃないよな?」

 探るような燁の言葉に巴は微笑む。

「それが、そうでもなさそうなんだ。陸、アレ持ってる?」

「おう」

 呼ばれた陸が取り出したのはアレ……フォース増幅装置だった。

「これ……この前回収した分ね」

 それは先日燁を除く三隊長が回収してきたものだった。相手の男の生命力が残りわずかだったのが気がかりだ。

「そうそう。これは、この間皆が持ってきてくれたやつで、こっちがその前に地軍が持ってきてくれたやつ」

 二つは良く似ているけれども少しだけ違って見えた。

「地軍が回収してくれた方がどうやら廉価版れんかばんで、隊長たちが持ってきてくれた分が最新型みたいなんだ」

 それはつまり、このフォース増幅装置が結構な範囲に出回っている可能性が高いということか……

「これらの製造元の目星がついた。君たちには今度はそちらに飛んでほしいんだ」

 巴の言葉に、火群四軍の隊長たちの間にピリッとした空気が流れる。

「それと煌にどんな関係が?」

 燁の問いに巴は少し複雑な表情をしながら答えた。

「多分そこに煌がいる」

 製造元だと思われるのは、今や大財閥とも言われる企業の一つだ。その元をたどっていくとある施設に行き着いた。

「それが燁と煌がいた施設だよ。ただ……」

「ただ……?」

 らんが巴の言葉を繰り返す。

「ただ、製造元はわかったけど、作っている場所まではわからなかった」

 小さく息を吐きながら巴は言う。

「それを燁に探させるのか?」

 蒼の声は少し険があるが、巴はそれを甘んじて受け入れ、燁と彼の肩を抱く蒼をまっすぐに見つめて言う。

「燁にしかできないことだよ」

 そう、これは他の誰にもできない。燁にしかできないことだ。

「もっと時間があれば、地軍が見つけることもできたかもしれないけど……今はそんな時間がないんだ」

 ……

「大丈夫だよ!」

 一瞬重い沈黙が落ちたところに、燁の明るい声が響いた。

「大丈夫だよ。オレの中に煌の力があるんだろ?だったら、大丈夫」

 なにか強い確信があるかのような口ぶりに、それまで硬かった他の隊長たちの表情もわずかに緩む。

 いつだってそうだ。燁の明るさや笑顔に、救われる。たとえそこに今は根拠がなかったとしても、燁は必ずやり遂げるだろう。彼らの良く知る燁は、そうだった。

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