第27話

「で?オレたちを集めたからには、それなりの理由があるんだろ?」

 再会の翌日。揃って朝ごはんを食べたあと、一息ついているところであおいが切り出した。

「ん?あぁ……そうだね」

 答えるともえは、どこか歯切れが悪い。リビングでくつろぐ四軍隊長を見渡したあとに、うみに目を向けた。

「?」

 その様子を見たようは、首を傾げる。

 視線を向けられた海は、ふいっと窓の外に目をやったあとに「あぁ……」と小さく零して微笑んだ。

「ちょうど着いたみたい♪」

 燁が『何が?』とか『誰が?』とか聞く前に、海はいそいそと玄関の方に向かっていく。燁は興味本位で後を追う。蒼もその後について行く。

 海が玄関の扉に手をかけたところで、ガチャリと外から扉が開けられた。

「あ♪」

「あ?」

「あ…」

 三者三様の『あ』と共に、現れた姿は……

「二人ともーー!待ってたよーー」

 ガバっという音が聞こえてきそうな勢いで、海は扉を開けた青年たちに抱きついた。一人は深いグリーンの瞳で、もう一人は淡いブルーの瞳を持っているが、その風貌は海と似ている……いや、全く一緒と言っても過言ではないかもしれない。違いは瞳の色と髪型くらいだろうか。淡いブルーの瞳の青年は眼鏡をかけているので、それでも区別ができるかもしれない。

「はいはい……海くん熱烈歓迎ありがとうございます。他の方もいらっしゃるから、中に入れてもらえますか?」

 ブルーの瞳の青年は抱きつく海の背中をトントンと宥めるようにさする。グリーンの瞳の青年は、呆れたように長い溜息を吐いた。

「いらっしゃい。二人が来るのを待ってたよ」

 クスクスと笑いながら、奥から現れた巴を見て、グリーンの瞳の青年はさらに溜め息を深くする。

「笑ってる場合じゃねぇよ……さっさと中に入れてくれ……」

 そう言われて、巴は海へと声をかける。

「海、二人の話を聞きたいから中に案内してもらえるかい?」

「はいはーい。了解」

 抱きついたまま答えた海は、こっちこっちと二人の手を引いてリビングの方へと引っ張っていく。

「さぁ、僕らも行こうか」

 巴の声にハッと我に返った燁と蒼も、彼らのあとに続いた。


 ソファに並んだ三つの同じ顔。違いはその瞳も色だけ。濃いブルーの瞳と空色の瞳、深緑の瞳……顔の造りは全く同じなので、幼い頃は見分けるのに皆苦労してたみたいだよと笑って話すのは海だ。他の二人は、空色の瞳で眼鏡をかけているのがそら、深緑の瞳で髪を短くしているのがりくというらしい。二人も海と同じように、左手の甲に火群の紋章を持っていた。

「つまり、僕ら三人が地軍ちぐんの隊員ってわけ」

 どこか得意げに言うのは海だ。

 火群には大きく四つの隊があり、炎軍えんぐん水軍すいぐn樹軍じゅぐん金軍きんぐんと名がつけられていた。その名の通り、炎軍は火を、水軍は水、樹軍は木、金軍は鉱物のフォースを操ることができた。巴は火群全体を統括する存在で、その巴直轄の組織が地軍ちぐんだった。しかし、その存在は謎に包まれており、四隊長たちも全貌を知ることはなかった……

 のだけれど。

 これが地軍か……

 らんは思わずしげしげと三人をみつめてしまう。のほほんとした海とどこかぼんやりした空とそれをまとめる陸……といったところだろうか。陸の苦労がなんとなく伺える。

「それで?報告は?」

 はるかの入れた冷たい飲み物のグラスを傾けながら巴は聞く。

「首尾は上々……と言いたいところだけど……」

 陸は少し苦虫を噛み潰したような表情をする。

「対象は三人。そのうちの二人は口をわりませんでしたが、一人が絶命の間際にコレを……」

 そう言って空はテーブルの上に布包ぬのつつみを置いた。巴がそれを手にとり、包みを開くと中から出てきたのは……

「腕時計?」

 包みの中には、黒い腕時計のようなものが入っていた。

 燁は不思議そうな表情で、それを見つめる。

「腕時計みたいだけど、そうじゃねぇ。よく見てみろ。文字盤ねぇだろ?」

 陸の言葉に四隊長たちは、さらに身を乗り出してそれを見る。

「ほんとだわ。レザーの腕輪にも見えるけれど、そうでもないんでしょ?」

 杳に言われて頷くのは空だ。

「ダメだよ!触らないほうがいい」

 ソッと手を伸ばそうとしていた燁は、海の言葉にビクッと肩を震わせる。

 そんな燁を見て、海は少し苦笑を浮かべて言う。

「これね、フォースを増幅させる機械みたいなんだ。だから、気を付けないと体の中のフォース全部持ってかれちゃうみたい」

 包んでいた布をよく見てみると、細かな刺繍が施された呪布のようだった。この呪布のおかげで、機械の能力が遮られているようだ。

 巴は、ふむ……と小さく頷いて、機械を元通りに布で包んで机の上に置く。

「……まぁ、こんな機械で増幅されたところで、制御できないことはないけどね」

 サラリと言ってのける巴が恐ろしい。

「こんな機械を使って、誰が、何をしようとしてるんだい?」

 そもそも五行の力は、この地上のあらゆるものに宿っている。火群に所属していた隊員たちは、その『あらゆるものに宿る力』を自身の体を媒体にして具現化して使うことができたに過ぎない。その能力も多かれ少なかれ、誰しもが元々持っているものだ。それを、この機械で増幅することができるということか……

 でも、誰が、何のために?

 巴の言葉に小さく首を振ったのは陸だった。

「今わかってるのは、この玩具おもちゃが原因で災害が増えてるってことだ」

「災害?」

 眉根を寄せたのは杳だった。

「確かに、今年に入って色んなところで小さくない災害が起きてる話は聞くけど、その原因がこの機械なの?」

 杳の問い対する答えは、イエスでありノーでもある。

「直接の原因ではないものもあるけれど、この玩具が関与している可能性が極めて高いものが多い」

 今の段階では、まだ断定はできないと陸は言う。

「ただ、災害が起きた地域の近くには、災害が起きたことで豊かになっている存在が少なからずいるんだ。そいつらをつなげていくと、この機械にぶち当たる」

 誰が?

 何のために?

「……四隊長にもさっそく仕事に出てもらわなきゃいけないみたいだね」

 巴の言葉に、四人は頷いた。

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