第25話

 ホームに戻ると、らんはすぐさまともえを風呂に押し込んだ。はるかはその間に食事の準備をする。冷え切った巴の体を温めるために、具沢山のスープを手際良く作っている。隣で手伝いながらようは杳に尋ねた。

「杳は、ここに来る前に巴と話したんだよな」

「そうよ。夢の中で、だけどね」

 夢の中では、もう少し元気そうな印象だったけれど、思ったより具合は良くなさそうだ。夢の中の姿は、実際の状態より本人の認識が大きく反映されるので、きっとそのせいだろう。

 ……巴くんが誤魔化し上手……っていうのもあるけどね

 昔からそうだった。巴は熱があったり、どこか怪我をしていたりしてもそれを周囲に悟らせないようにするのがとても上手い。そのことに一番に気付くのは、いつだって藍だった。

「巴に、何か聞いてる?」

 小首を傾げる姿から、燁は何も知らずにこの場にいるのかもしれない。

 燁くんらしいと言えば、らしいけど

 燁はどんなときも、仲間のためならその身を投げ出してでも救いの手を差し伸べた。当時の彼にとって、火群ほむらが唯一で全てだったのだろう。当時の杳や蒼も家族と呼べる存在はいなかったけれど、自分たちよりも幼い燁にとっては、火群が世界の全てだったのだ。

「聞いてはいないわ。でも、火群でしかできない仕事だって言われてる」

 聞いてはいない。巴の持つ情報を頭の中にそのまま流されたけれど、話を聞いたわけではない。詳しいことは、きっとこれから巴自身の口から聞かされるはずだ。

「ふーん……どんな仕事なんだろ」

 燁の表情は、久しぶりの再会に喜んでいるようにも戸惑っているようにも見える。

 それぞれ、島を出たあの日。また会おうと、確かに約束をしたあの日。

 まさかこんな形で会うことになるなんて……

 そんなこと誰も想像していなかった。こんなふうに再会することは、決して望んではいなかった。

 平和な世界ができたら、もう一度会おう。

 そう言って別れた。

 ……平和な世界には、まだほど遠い

 国は一見平穏を取り戻したように見えるけれど、その内はまだまだぐちゃぐちゃだ。旅一座の一員として国中を回っていればよく分かる。

 災害や貧困、貧しさからくる諍いや争い。この国には、まだまだそんなものが蔓延している。平和に見えるのなんて、都市部の一部だけだ。

「でも……やっぱり、皆といられるのは嬉しいな……」

 小さくそう呟く燁に、杳は小さく微笑んで頷く。

「そうね。皆と一緒にいられるのは嬉しいわね」

 その言葉に嘘はない。けれど、巴からこれまでのこととこれから先のことを伝えられている身としては、それだけを素直に喜ぶことができない。

 でも……

 もしも、少し先の未来でかつてと同じような体験をするのであれば

 やっぱり、皆一緒じゃなきゃ……

 あの頃を乗り越えることができたのは、彼らと一緒にいたから。だから、これから先を乗り越えるなら……


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