第14話
現在、表面上はそれらの国々との間に大きな問題はないとされてはいるものの、小さないざこざや小競り合いのような戦いは各所で起きている。軍の主な仕事は、国境の警備とそれらの争いへの対応だと
「うん。そうだね。それは間違ってないよ」
間違ってない……とは、ひどく曖昧な言い方だ。
「軍の仕事は、実はもう一つあってね……」
言いながら
「軍は、
火群……その言葉を耳にするのは随分久しぶりだ。藍と再会してからも決して口にはしなかった言葉。
「火群の人間を……探して……監視?」
ちょっと頭が追いつかない。
元来頭の回転が早い方ではない燁は、きょとんとした表情を浮かべる。
「政府の上のほうにね、火群の存在を危険視している人間がいるんだ。それも少なくない人数ね……。その人たちが中心となって、火群の人間を探して監視する動きが強まっている」
じゃあ……もしかして……
「藍がオレを探していたのもそのせい?」
会いたくて、何か目的があって、会いに来てくれたんだと思っていた。でも、そうじゃなくって、見つけて、監視するためだったとしたら……
「違う。そうじゃない」
はっきりと巴は言い切る。
「確かに、正規軍は火群の人間……彼らは残党なんていうけどね……を探しているけれど、彼らに探せるはずはないんだ。火群の全容を知っているのは、僕と君たち四人くらいのはずだからね。もし、火群の人間が見つかることがあれば、それは本人が名乗り出たときだ」
「だったら、どうして!」
思わず声が大きくなってしまったのは許してほしい。
燁は少し巴の方に見を乗り出す。
「だったらどうして、オレを探したりしたんだ?オレを見つけて、監視するためじゃないのか?」
「燁……君をここに呼んだのは、君に……君たち火群四隊長に頼みたいことがあるからだよ」
たのみ……たいこと……?
再びきょとんとした顔になった燁に巴は優しく微笑む。
「そう。お願いしたいことがあるんだ」
巴の金色の瞳が
綺麗だ
キラキラと輝く金色の瞳は、甘い飴玉のようにも宝石のようにも見えた。
……と、リーンと鈴の音が響いた。直後、ガラッと玄関の開く音がして、その後にトントントンと軽い音が続く。誰かがこの部屋に向かって歩いて来ているようだ。鈴の音は、この建物に人が近づくと鳴る仕組みだろうか。
「生きてる?」
バンッと勢いよく
「生きてるよ」
巴は女性に向かって、苦笑いをしながら言葉を返す。
「そ。なら良かった。つーか、この部屋暗いわね。電気くらいつけなさいよ」
言いながら女性は、部屋のすみの柱にあるスイッチを入れた。
部屋がパッと明るくなって、巴は一瞬キュッと目を
着ている白衣をバサッと翻すと、女性は布団に半身を起こした巴の側について、その細い腕を持ち脈を測り始めた。
「ん、オッケ。熱もなさそうだし、顔色も…良くはないけどこんなもんよね。ちょっと口開けてあーって言って」
言いながら、巴の下まぶたをベッとめくったり、額に手を当てたり、喉の奥を覗いたりと一通り診察をしてにっこり笑う。
「今日はマシね」
マシって……
思ったのは燁だけだろうか。
「大丈夫だよ、
「あんたの大丈夫は信用ならないの。信じてほしかったら、それ相応の誠意見せなさいよ」
医者に見せる誠意とはいかに……
藍が小さく息を吐いて、彼女に言う。
「紅……巴と大事な話してたんだけど……?」
その言葉にくるりと藍の方に向き直って女性……
「あら、藍いたの?」
いたの?じゃねーよ……
思わず藍はがっくりと肩を落としてしまう。
「いたよ……」
「そ。でも、医者の診察より大事な話なんてある?」
ある……と言いたいところだけれど、そうはいかないのだろう。あと、まぁ……大体の話より、医者の診察のほうが大事かもしれない。
「ないでしょ?でも、もう終わったからいいわ。ただし、無理はさせないで。
言いながら紅は持ってきていた薬箱の中からいくつか包を取り出す。
「これは食事のあとに飲む分で、こっちは寝る前ね。それから、これは朝起きたとき。三日分渡しておくから、忘れずに飲ませること」
テキパキと藍に指示を出すと、紅はサッと立ち上がる。立てば
「わかった……ちゃんと飲ませるから……」
どこか諦めたように言う藍を見て、紅は満足そうに笑みを浮かべる。
「巴の面倒見られるのあんただけなんだから、しっかりやりなさい」
ポンポンと小さい子どもの頭を撫でるように、紅は優しく藍の頭を撫でると、今度は巴に向き直る。
「巴は、ちゃんと藍の言うこと聞くこと。無理したら承知しないわよ」
その言葉に巴は何かしらの覚えがあるのだろうか苦笑をしながら頷く。
「じゃ、あとよろしく」
返事を確認した紅は、スパーンと襖を開けると廊下に出て颯爽と帰っていった。
……何ていうか……
「嵐みたいな人でしょ?」
クスクスと笑いながら、巴が言う。
「……うん。藍があんな子どもみたいな扱いされてるの初めて見た……」
燁にとって藍は、いつだって頼れる兄貴分だったのだ。それをあんなふうに小さい子にするように扱うなんて……
「まぁ……紅に言わせれば、藍やぼくは子どもみたいなもんなんだと思うけど」
巴は笑いを苦笑いへと変えて言う。
「
「それ、本人に言うなよ?」
燁の言葉に、渋い顔をして藍は続ける。
「喜ぶから」
……喜ぶのか……。
「さて、どこまで話したっけ?」
改めて姿勢を正した巴は、話の続きを始めた。
「頼みたいことがあるってとこまで」
燁の答えに巴はポンっと手を叩いて続ける。
「そうそう。頼みたいことがあるんだ」
微笑む巴の隣で、藍は少し難しい顔をしている。
「最近、国内で起きてる事件のことは知ってる?」
……事件?
曲りなりとも国防に関係する機関に所属しようとしている身だ。燁自身も新聞を読むことを日課としてはいるが……
最近新聞の一面に載っていた記事といえば、帝がお誕生日を迎えられた……とか、汚職をしていた政府の上官が更迭された……とか。他には、ちょっと前に大雨が降って、町が一つ流される大きな被害が出たということが大きなニュースになっていた。ここのところ山火事や地震など、自然災害が続いているのが実はちょっと気になっている。
「それなんだ」
キラリと巴の瞳が鋭く光る。
それ……?
「その自然災害、本当に”自然”だと思う?」
本当に”自然”かどうかなんて……
「それをね、君に……君たちに調べてほしいんだ」
そう言った巴の顔は、かつて自分たちを率いて戦いに赴いていたときの表情と同じだった。
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