第8話
店から出て空を見上げると、チラチラと星が瞬いていた。けれど、見える量は
満腹になった燁と藍は、食堂を後にする。途中の屋台で翌日の朝食としてパンと飲み物を買い、ゆっくりとした足取りで宿へと戻る。
熱気で火照った体に少しひんやりとした空気が心地よい。街はまだまだ賑やかで、人々の夜もこれからが本番のようだ。行き交う人々は楽しそうに笑っている人が多い。
良い街だな……
活気があって、人々が笑顔で楽しそうだ。
「てめぇ舐めてんのか!?」
突然響いた怒号に燁と
「親が返せないならてめぇらが返すってのが筋ってモンだろうが!!」
「だから、金なんかないって言ってるだろ!」
「金がねぇなら体で返せっつってんだよ!!」
男はそう言うと、少年の抱く少女の腕をグイっと掴んで立ち上がらせようとするが、その力が強すぎて少女は半ば引きずられるようになってしまう。
「離せ!!」
鋭い声を上げて、少年が男の腕を強く叩く。と、男が反射的に腕を振り上げたせいで、少年たちは弾かれたようになり地面へと叩きつけられた。
「!!」
飛び出そうとした燁を藍が手で制して首を振る。燁は少しだけムと顔をしかめる。が、藍の表情を見て、口をキュッと引き結んで上げかけた腕を下げた。
「君、所属と名前は?」
朗々とした藍の声が響く。
男が弾かれたように振り返り、眉を上げるが藍の姿を見て慌てて敬礼をした。正確には、藍の着ているコートに付けられた煤れた勲章が目に入ったのかもしれない。
「は!
振り返った男は軍服を着ていた。
「ロランド……か。覚えておこう。君は今ここで何をしているんだ?」
「……」
笑顔を浮かべながら重ねて問う藍に、ロランドは一瞬躊躇するが、ゆっくり口を開く。
「この子どもたちは、最近親を亡くしたばかりなのでたまに様子を見に来て面倒を見ているんですよ」
薄い笑みを浮かべて、でも慎重に言葉を選びながらロランドは言った。その言葉に少年は目を見開き歯をむき出しにして怒鳴る。
「ざけんな!!てめぇなんかに面倒見てもらうくらいなら死んだほうがマシだ!!さっさと失せろ!」
少年の言葉にロランドは一瞬眉を吊り上げるがすぐに顔を薄ら笑いに戻して、藍に向かって言う。
「元々貧しい家だったので、親の躾がなってなくて……口が悪くて申し訳ありません」
「てめぇに何がわかるんだよクソ野郎!」
今にもロランドに殴りかかろうとする少年の服の袖を、少年に抱きしめられていた少女がそっと引く。すると少年はハッとしたように表情を変えて口をつぐんだ。
「後はわたしが引き受けよう。君は持ち場に戻りなさい」
「しかし……」
「いいから。……それとも何かい?君はわたしの言葉が聞けないと?」
笑顔を収めた藍の目の光にロランドは「ヒッ……」と血の気を失って慌てて背筋を伸ばして敬礼をする。
「……し、失礼しました。ではわたしはこれで……」
真っ青な顔でそう言うと、ロランドは小走りで去っていった。
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