第89話 ドヤ街に泊まろう

(咲、真菜。こんな俺で良いのかな?)


(うん!良いよ。ノンの知られざる生態が分かって面白いよ。風俗に行かないのは、あたしと真菜で充分に満たされているからなんだね。嬉しいよ。)


(明日の午後1時で終了でしょ?どこに行けば良いの?)


(ホテルのロビーに来て。エミリーがアメリカに帰るから、そのお見送り。)


(エミリーは俺の事、どう感じてるのかな。つまらない男だと思ってるんだろうね。)


(そんな事ないよ。護衛もいなくて大丈夫なのか心配してるよ。エミリーには常に複数の護衛がついているからね。)


(俺はこれから何をすれば良い?)


(ノンのしたい事をすればいよ。)


(そうか、わかったよ。)


 時間は午後4時を過ぎた所だ。今日はどこに宿泊しよう。そうだホームレスへの最短距離、ドヤ街に行ってみよう。一度宿泊してみたいと思っていたのだ。俺は居酒屋を出て歩いてドヤ街に向かった。着くと簡易宿泊所が沢山ある。建物が古くても良いので一番安い宿を探した。


 1つの簡易宿に目が留まった。テレビ付きの部屋と無い部屋がある。俺はテレビを見ないので無しの一番安い部屋を選んだ。値段は千八百円。風呂は無く共同シャワーがある。シャワーセットなるモノがあり、ボデーソープ、リンスインシャンプー、髭剃り、バスタオルが付いて五百円だ。


 先ずは宿泊費を支払い一階の105号室に入った。部屋に入ると三畳ほどの広さでせんべい布団がひかれている。そしてこの部屋、驚く事に窓が無い。もちろんエアコンも無くサウナ室に居る様だ。これではインターネットカフェに泊まる方がましだ。お金が無いなら路上に寝た方が良い。


 俺は受付に交渉して窓の有る部屋に変えてもらった。追加料金で七百円支払った。二階の203号室に移ったがクーラーが無いので窓を全開にした。俺の選択ミスだ。しかし何事も経験だ。


 宿を確保したので次は夕食だ。


 俺は焼肉屋に決めた。この焼肉屋の作りは昭和的に古いがカルビが滅茶苦茶美味しいのだ。お通しの千切りキャベツは酢で漬けて有り焼肉によく合う。


 飲み物はホッピー。普通居酒屋で飲むホッピーは「なか」をおかわりするのだが、ここのは違う。大ジョッキーで出て来るのでおかわりの必要がないのだ。咲や真菜を連れて来たいお店の一つだ。


 店のある場所がドヤ街寄りで地元の駅から少し歩くので二人を連れて来た事が無い。今日はカウンター席に座り一人焼肉だ。お店の人に「久しぶりですね。」と声をかけられ焼肉を焼く。


ホッピーを3杯飲み、〆は白いご飯にした。

カルビには白飯が合う。おかわりして2杯たいらげた。これだけ食べても五千円でお釣りが来る。


 若い頃はこの焼肉屋に来ると、酒の勢いで風俗街に足を運んだものだ。今日はおとなしく宿へ帰るとしよう。


 宿に戻ると時間は午後7時を過ぎたところだ。電車の線路沿いに宿が有るので、電車が通り過ぎる事にガタン、ガタンと音が鳴りうるさくて寝ていられない。それでも早めに精神薬を飲み、寝る事にした。咲と真菜に心の声を送る。


(咲、真菜、俺はもう寝るよ。面白いパフォーマンスが出来なくてごめんね。)


(ノン、良いの。お金が有るのに、ギャンブルや風俗の誘惑に負けないんだってわかったから収穫があったよ。最後まで応援してるからね。)


(ノンさん、咲さんの言う通りです。派手なパフォーマンスをするより、いつものノンさんでいて下さい。)


(二人ともありがとう。おやすみ。)


(おやすみ、ノン。)


(ノンさん、おやすみなさい。)


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