第76話 真菜のお疲れさん会

 診察を終え薬局に行くと冴子が待っていた。


 俺はこの日、咲がメンタルクリニックについて行きたいと言うのを断っていた。俺の休みに合わせ、水晶占いの休みを土、日、祭日としていた。昼は咲と駅前で食べる約束だ。薬局で薬をもらい、帰る為駅に向かうと冴子がついて来る。咲から心の声が届く。

 

(ノン、冴子をこっちの駅まで連れて来て。あたしが何とかするから。このままだとノンが冴子に食べられちゃうよ。)

 

 俺は冴子に駅まで行く様に誘った。咲が特別に無料で水晶占いをしてくれると話すと喜んでついて来た。


 駅に着くと、いつものようにメガネ、マスク、帽子をした咲が出迎えた。ノアの占いブースに着くと咲が水晶占いの格好に着替え、冴子を迎え入れた。


 水晶占いは一時間の長いモノになった。


 水晶占いを終えた冴子の顔は、涙で泣き腫らしている。何が有ったのか聞いても答えない。帰ると言うので、咲が着替えている間に改札口まで送った。占いブースに戻り咲と合流した。

 

「冴子はノンが言っていた通り、酷い経験をしているね。過去を恨まず、未来は必ず開けるとアドバイスしたの。霊力を授け自分で戦う事を勧めた。オンリーパートナーはノンにしたいって言うから、それは出来ないって言っておいた。あたしと真菜が最強の霊力をノンにかけてるから入り込む余地が無いって。霊力を持っている女子がノンの心だけは聴こえないって知ってた?あたしと真菜しかノンの心の声は聴こえないの。幸せでしょ。ポセイドンプロジェクトのターゲットとして頑張るためだから。」

 

 来週は真菜の受験が控えている。


 俺は真菜と寝る前の十分だけ心の声を通して毎日会話していた。受験勉強は順調に進んでいるらしい。咲の教えで毎日、午前0時から十五分だけ三毛猫のサクラになり、天の神様の啓示を受け、祈りを捧げていると話した。


 咲がマチルダになるのと同じで、サクラでないと啓示を受けられないみたいだ。早く進路を決め、咲と合流したいと声を弾ませた。

 

 そして受験日。試験が終わったら、午後5時半に駅の改札で待ち合わせ、3人でお疲れさん会を「八たん」でやることにした。


 時間になり改札に着くと、真菜が晴々とした顔で待っていた。どうやら手応えが有った様だ。少し遅れ咲が来て八たんに向かった。俺はこの日、二つだけある4人かけの座敷を予約していた。いつもはカウンター席だが、今日は若女将に特別に頼み座らせてもらった。


 これで牛タン焼を囲みゆっくりと話せる。


 俺は芋焼酎のロックを、咲はレモンハイで真菜はオレンジジュースで乾杯した。牛タン焼の他、若女将のお勧めだと言うアスパラと椎茸焼きも注文した。

 

「真菜、お疲れ様。すべり止めは受けないで福祉大一本だって聞いたけど凄い自信だ

ね。」

 

「ノンさん、大丈夫です。綾ちゃんが心配して、試験中ずっと心の声で応援してくれました。いざという時、答えを教えてくれると言ってくれましたがそれは断りました。」


 綾とは十二使徒のリーダー格である若干十九歳の現役一流大生だ。俺とは面識が無いがモデルとして女性誌の表紙を飾ったりする売れっ子らしい。しかし芸能界に興味は無く法律を学び、弁護士を目指しているそうだ。

 

「わたし、綾ちゃんとかなり相性が良いんです。綾ちゃんの『TEAM JAPAN』愛は凄いんです。合気道4段は伊達じゃ無いんです。竹刀一本持てば不良男子4人くらい一度に倒せるんです。綾ちゃんをきっかけにして十二使徒を結成したんですから。」

 

「あたしが男なら嫁にするね。あんなに良い女いないよ。綾に霊力を授けた時、真菜が泣いて喜んでたもんね。十二使徒を集めるのにも綾の存在が大きかったしね。」


「全て俺が、精神病院に入院している時の出来事なんだね。何も協力出来なくてすまない。」

 

「ノンは生きてるだけで良いの。あたしと真菜の大切な癒しなんだから。落ち込む時はマチルダとサクラがノンを癒すから。」

 

「そうですよノンさん。可愛い子猫が2匹頑張って生きてるんですから。ノンさんの存在無しにポセイドンプロジェクトは成り立ちません。今という奇跡を楽しみましょう。」

 

「2人ともごめん。俺、めっきり涙もろくなっていてさ。一緒に居てくれて有難う。」


 俺はこの日、芋焼酎の涙割りを5杯飲み干した。涙を流す俺の背中を、咲が優しくさすってくれる。


 〆に麦ご飯とテールスープを頼みお疲れさん会が終了した。

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