第73話 俺の心配

 ファミレスを出て場外にあるホルモン屋に向かった。


 この並びにあるラーメン屋が去年の夏に火事を起こし今も閉店中だ。その前を通り過ぎホルモン屋の列に並んだ。俺達の順番になり、ホルモン丼を一杯頼み、それに生卵を入れて貰った。店が狭く食べる場所は道路側に置かれたテーブルで立ち食いだ。


 受け皿を三枚もらい、分けて食べた。ホルモンがトロトロになるまで煮詰めてあり、味は濃厚で見た目味が濃く見えるが意外とあっさりしていて旨いのだ。ペロッと食べ終え、物足りないと言う咲と真菜。


 次はかつ丼だからとなだめ、場内のとんかつ屋に向かった。


 店に着くと丁度三人分の席が空いた。咲がかつ丼で真菜がオムライスを頼み、俺が牡蠣フライ定食を注文した。俺は咲と真菜に牡蠣フライを一個ずつあげて、咲からカツを一切れもらい、真菜からオムライスを少しもらって食べた。


 カツ丼はこのとんかつ屋が俺の中では一番美味しいと思う。注文が入ってから、肉に衣を付けて揚げて作るのでサクサクなのだ。俺は初めて魚河岸に来た時、カツ丼はこの場所に似合わないと思いながら食べて、余りの美味しさに驚いたものだった。

 

「ノンは本当に美味しいお店を沢山知っているね。でも少しはあたしと真菜の為に減量して健康な体になってね。最低でも八十歳まで元気にエッチ出来なきゃ駄目だよ。」


 俺は咲の声をうわの空で聞いていた。真菜が天の神様の霊力を受け入れたらどうなるのだろう。最後の最後に俺は一人ぼっちになるのだろうか?真菜が嬉しい事を言う。

 

「ノンさん、心配しないで。わたしは、ノンさんを看取ってから後を追いますので。寂しい想いはさせません。安心して一緒に老後を過ごしましょう。咲さんに負けないくらい可愛いお婆ちゃんになりますよ。」


「言ったな、真菜!でもあたしが恐らく一番最初に天に召されるからノンの事は任せたよ。その頃の地球は愛で満ちていたら素敵だね。もしかしたら不老不死を手に入れているかもしれないし。」

 

 俺達三人は魚河岸を満喫し、家路に向かった。


 家に着くと先ずは風呂だ。咲、真菜、俺の順番で入る。真菜がいつ俺の家に泊まっても良い様に、お泊りセットが用意されている。下着や代えの服などだ。真菜用の歯ブラシ等も用意してある。


 風呂から上がると夕食を食べようという事になった。家の近所にある中華屋でラーメンを食べる事にした。今日はよく食べた。咲と真菜はもう次に行く場所を話し合っている。


 次に行く場所。そう、富士急ハイランドだ。真菜も行った事が無いそうで楽しみにしていると言った。


 大学は福祉大学を受け、心理カウンセラーの資格を取るらしい。二月が試験で、三月に合否が決まるそうだ。合格祝いに4月に三人で富士急ハイランドに行く約束をした。


 夕食を済ませると時間は午後六時だ。


 咲が麻雀をやりたいと言うので牌を準備した。三人で対局するのは初めてだ。咲がイカさまをしない様に牌を全て伏せ積み込む事にした。咲が雀荘でどんな打ちまわしをしているのか興味があるからだ。


 真菜の親で対局が始まる。


 真菜は咲に劣らないくらい負けず嫌いだ。(ノンさんすいません)と真菜。心の声が聴こえなくなり無音になった。(それじゃあたしも)と咲。こちらも心の声が聴こえなくなり無音になった。霊力など持ち合わせていない俺にはどうする事も出来ない。


 まずは、真菜が先制リーチをかけて来た。咲は静観している。俺は現物を捨てこの局は降りた。「ツモ、一発です。」いきなり親満をあがる真菜。咲は不敵な笑みを浮かべている。


 ここからの咲が凄い事になった。四暗刻、緑一色、大三元、国士無双と四回連続で役満をツモった。真菜は泣きそうだ。伊達に雀荘でプロ相手に勝っていない。この小娘手加減と言うものを知らないのか。


(ノンさん助けて下さい。)と真菜。


 仕方がないので真菜のリーチにワザと指し込んであげた。これはもう麻雀ではない。女の意地と意地の戦いなのだ。結局咲の一人勝ちだった。「もう麻雀なんかやりません。」とすねる真菜をなだめ午後八時の精神薬を飲み、寝る事にした。


 俺が深い眠りについた頃、真菜は天の神様の霊力を受け入れ猫になり、天の神様の啓示を受ける様になるのか。自分の命を削ってでも他人に愛を説いていくという行為に俺は寄り添う事しか出来ない。


 俺は一人ベッドに横たわった。

 

 咲と真菜はソファーに並んで座り、ポセイドンプロジェクトの進展を話している。


 今日は魚河岸散策で歩き疲れた。目を閉じると自然と深い眠りについた。

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