第72話 真菜の決断

「ノン!朝だよ。起きないと約束の時間に遅れちゃうよ!」

 

 咲の元気な声で起きた。今日は魚河岸でご飯を食べるので、朝飯は無い。天気も良くお出かけ日和だ。駅までバスで行き、駅の改札に行くと既に真菜が待っていた。

 

「真菜、おはよう。明けましておめでとうかな。後これは神社のお守り。ご利益があると良いけど。」

 

 俺は緑色の合格祈願のお守りを真菜に渡した。緑色は俺のラッキーカラーだと言う言葉に微笑む真菜。

 

「ノンさん、咲さんから聞いていると思いますが、実はわたし……」

 

「ん?真菜が進みたい道を行けば良いと思うよ。俺も咲も真菜を信じてる。俺みたいに後悔ばかりの人生も困るけど、真菜には明るい未来が待っているから。協力は惜しまないから何でも言ってよ。」

 

「うっ……ノンさん…」

 真菜は俺に抱きつき泣いている。

 

「取りあえず魚河岸に行こう。美味しい大トロ丼を食べて、お寺でお参りしてそれからまた魚河岸でホルモン丼を食べよう。今日は食い倒れコースだよ。咲が麻雀で大勝したから全部咲のおごりだよ。」

 

 俺は真菜の肩を抱き歩き出した。魚河岸は駅から歩いて数分の場所にある。エリアが場内と場外に分かれて有り、一般の人は場内のお店の場所が分からない場合がある。

 

 俺達が目指すのは場内の海鮮丼専門店だ。


 お店に着くと予想通り長蛇の列だ。最後尾に並び、順番を待つ。店頭に丼の写真と値段と、何が入っているのか書いて有り、それに番号が書いてある。注文はこの番号でする。

 

 咲も真菜も魚河岸独特の雰囲気に圧倒されている様だ。何を食べようか考え込む咲と真菜。大トロだけじゃ味気ないと言い、大トロ、ウニ、イクラの三点盛に決めた。俺達の順番が近づいて来た。三人共同じ丼を注文した。店内に入ると、また独特の雰囲気が有る。 

 

 席はカウンターしか無く十五人しか入れない。


 静まり返った店内は皆、食べる事だけに集中している。俺達の丼が来た。「うわー、綺麗」と咲と真菜。二人の食べる顔を見ているだけでいかに美味しいのか伝わってくる。一時間ちょっと待った甲斐があった。


 会計を済ませ外に出てどうだったか聞くと、美味しかった、また来たい、と声を揃えて言った。


 お寺に行く前に、神社に寄った。かなり古い神社で小さいが風格があり、俺は好きだ。三人でお参りして、お寺に向かった。大型バスが敷地内に入り参拝の人で賑わっていた。こちらの参拝も済ませ、魚河岸の場外にあるファミレスで一休みする事にした。


 話題は自然と真菜の進路の話になる。

 

「わたしは、東大へは行きません。プロの心理カウンセラーになり、『TEAM JAPAN』のリーダーとして人生を全うします。両親はわたしが東大に行かない事を懸念していますが、一人暮らしを諦め家に残ります。ギリギリまで考え抜いた答えです。最終的には修行をして、咲さんの様に他人に霊力を授けられるくらいになりたいのです。」

 

「真菜があたしの様に、他人に霊力を授けられるようになれる方法が一つだけあるよ。」

 

「本当ですか!それはどんな方法ですか?どんな苦行にも耐えますので教えて下さい。」

 

「猫になる事。」

 

「はいっ?」

 

「あたしが黒猫になる様に、真菜も猫になり天の神様の啓示を受けられる様にするの。ただしこの霊力を受け入れると、普通の人間の三倍の速さで歳を取るので相当な覚悟が必要になるよ。あたしはノンと運命を共にするので丁度良いの。人生が三分の一の長さになるからよく考えて決めてね。」

 

「駄目だよ!駄目、駄目。俺は絶対反対だよ。咲は自分が何を言っているのか分かっていないんだよ。そんな事したら俺が咲だけで無く真菜の事も看取るの?おかしいでしょ。真菜、今のままで良いから。」

 

「咲さん、その霊力を受け入れます。わたしもノンさんと運命を共にすると決めたのです。世界中に産まれた霊力を持つ命達と愛を広めましょう。」

 

「分かった。それじゃあ、今日はあたしの家に泊まって。ノンが深い眠りについた頃に、天の神様から最大級の霊力を真菜に授けてもらおう。」

 

「ありがとうございます。咲さんの足手まといにならないように精進します。よろしくお願いします。」


 二人とも俺の話を聞いていない。今の俺に出来るのは、次に美味しい店に連れて行く事くらいだ。咲と真菜に聞いた。

 

「次はホルモン丼を食べようか。ここでは一杯だけ注文して、取り皿をもらい三人で分けて食べよう。それから場内に入って、かつ丼とオムライスの美味しい店に行き食べよう。この店は牡蠣フライも美味しいんだ。どう?」

 

「いいね!食べ物の事はノンに任せるよ。それじゃあ行こうか。」

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